瑠哀 ~フランスにて~
 瑠哀はピエールの肩越しから周囲に眼を配らせるようにして、その視線の主を探してみた。


(どこだろう…………)


「ルイ、どうしたの?」



 気が付いたら朔也が隣に来ていた。

 瑠哀はかぶりをふって笑みをみせる。



 ピエールから渡された手を取って、朔也がステップを踏み出した。

 ―――瑠哀は、驚いていた。



 こんなに優しくリードされたのは、初めてだった。

 元々、ダンスをするのを極力避けているから、たくさんの相手を知っているわけではないが、それでも、こんなふうに人を包み込むように優しくされて踊るのは初めてだった。



『……先例ができたら面倒、って』


 不意に朔也が呟いて、瑠哀は横を見た。



 瑠哀はヒールを履いているから、朔也の目線とかなり近い。

 朔也は瑠哀の瞳を見つめながら続ける。



『他の男が誘ってきたら断れなくなる、ってこと?』

『そんなんじゃ……』

『君を欲しがる男は、たくさんいるんだろうね。

――あまりに綺麗なんで、驚いた…』

『よく、化けたでしょう?』

『そんなことはないよ。君は、そのままでも、とても魅力的だ……』


 そのまま黙り込んで瑠哀を見つめている朔也の様子がいつもと違っているようで、思わず聞いた。
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