白銀の女神 紅の王(番外編)
二人の足ではフェルトの家まで数十分ほどかかり、護衛が駆けつけるまで数分。
それまで時間稼ぎをしなければ……
「それで?お友達が何しに来たんだ?」
「む、迎えに来たんです」
不機嫌も露わな男に慌てて答える。
「渡すわけにはいかないな。こいつは俺に手を上げたんでな、ちょっと灸を据えてやらないといけない」
「私はただ理不尽な誘いを断っただけよ」
静かに答えたノーラの瞳には涙が浮かんでいた。
その涙を見て、震えていた体が少し落ち着いた気がした。
「彼女の言い方に問題があったのかもしれません。けれど、貴方たちの引きとめ方も問題です」
妙に落ち着いた気持ちが背を押し、男たちを見据えて口を開く。
「気のない女性を追いかけて楽しいですか?その女性には心に決めた人がいます。だから離してあげてください」
ノーラを捉えていた男は興味深そうに私を観察し、ニヤリと笑った。
「よし、いいだろう。勇気あるお前の行動に免じて許してやろう」
私は男の言葉を信じて疑わなかった。
「ほら返してやるよ」
男はノーラの胸ぐらを掴んだまま私に差し出すように突きつける。
ノーラの腕を掴もうと手を伸ばしたその時。
男はノーラを解放し、伸ばされた私の腕を掴んで思いっ切り引いた。