FatasyDesire~ファンタジー・ディザイア~
クレドは彼女を色んな装飾にこだわった寝室の広いベッドに寝かせる。
沈み込む身体、安らかな寝息にクレドはホッと一息つく。
「……やっと見つけたのね」
以前からキリエの話を聞いていたジュリナは、祝うようにクレドに微かに笑いかけた。
それにクレドは複雑な思いで頷く。
嬉しいし、言葉にならないほどの幸せが脳内を占める。
だが、あまりにも不可解なことが多い。
クレドの中でずっと引っ掛かっているのは、キリエがフランツ家の戸籍にいないということだ。
まるで何かから逃げるように、このフォレストにやってきた彼女。
その時、クレドはハッとトーマの言葉を思い出した。
『――……お前を嗅ぎ回っている奴がいるらしい』
もしかすると、それはキリエのことかもしれない。
キリエが自分を捜して此処に来たのならば、納得出来る。
しかしこんな危険地区にたった一人の少女が無事にクレドに会えたことが、奇跡に近い。
いや、もしかすると目に見えていないだけで、無事ではなかったのかもしれない。
言い様のない不安が拭えず、クレドはキリエの小さな手をぎゅっと握り締めた。
「とりあえず傷の手当てね。二人とも、出ていきな」
またして自分が率先してキリエの面倒を見ようとするジュリナに、クレドは不満そうに彼女を見る。
女のシャルレには、ジュリナの言わんとすることがわかる。
恐らくパジャマで隠れているだけで、キリエは体中に傷を作っているのだろう。
それはなんとなくクレドにもわかったが、心配でならないのだ。
片時も離れなくない。
「……わかった」
しかしジュリナ相手ではどうも強く出られず、二人は渋々と寝室から出て行った。
彼女は横たわる少女を見て、いろんな思いを巡らせる。
4年間見守り世話を見た青年が、必死に捜し続けた少女。
自分の身体すら犠牲にして、危険を承知の上にここにいることを望んだ。
そこまで彼が少女に執着する理由はわからなかった。
実際見てみれば、綺麗な容姿だ。
非の打ち所のない顔立ちに、柔からいロングヘアー。
何処か儚げな雰囲気が、守りたいという庇護欲にかられるのだろうか。
一緒にいた時間はたったの5年。
ほぼキリエが生まれてから一緒だとしても、離れて暮らした時間の方が遥かに長い。
逆にその長すぎた時間の所為で、クレドは執着したのだろうか。
理解できない若人の純粋な気持ちに、溜め息をつきながらキリエのパジャマを脱がせた。
フランツ家から此処までの道のりを考えると、この傷だらけの身体も仕方ない。
何度も転んで、擦り傷を作り、体調を崩したに違いない。
彼女もまたここまでして彼に会いに来た。
年をとった所為なのかしら、と考えて嫌気がさす。
大人になって数年経ち、29歳になった自分にはわからない青年達の想いは、どこまでも白いものだと痛感した。
膝、腕、背中、腹部、特に足の損傷は酷い。
ここへ来た時は素足だったのだ。
ということはずっと靴も履かずにやってきたのだ。
傷を消毒して、包帯を両足に巻き終わった所で不貞腐れていたクレドとそれを上手く宥めるシャルレを呼び戻した。
「キリエの傷は?」
「大丈夫よ。ただ足が腫れてるから、暫くは歩かない方が良いんじゃない?」
「そう……」
「どうするの? 連れて帰るの? 此処に置くの?」
答えはわかり切っていたが、建前として一応聞いておく。
即答で「連れて帰る」と言ったクレド。
クレドは今日の仕事を全部キャンセルして、シャルレに3万カイルが入った封筒を返した。
キリエを抱き上げると、彼女が起きてしまわないようにゆっくりとした足取りで歩き出した。
「仕事復帰の時は連絡を入れてちょうだい。今日の客のご機嫌取りでもしてもらうわ」
「わかった」
少しだけジュリナの方に振り返り、小さく頷く。
唯一の宝物を腕に抱き、青年はこの穢れた娼館から逃げるように去った。
沈み込む身体、安らかな寝息にクレドはホッと一息つく。
「……やっと見つけたのね」
以前からキリエの話を聞いていたジュリナは、祝うようにクレドに微かに笑いかけた。
それにクレドは複雑な思いで頷く。
嬉しいし、言葉にならないほどの幸せが脳内を占める。
だが、あまりにも不可解なことが多い。
クレドの中でずっと引っ掛かっているのは、キリエがフランツ家の戸籍にいないということだ。
まるで何かから逃げるように、このフォレストにやってきた彼女。
その時、クレドはハッとトーマの言葉を思い出した。
『――……お前を嗅ぎ回っている奴がいるらしい』
もしかすると、それはキリエのことかもしれない。
キリエが自分を捜して此処に来たのならば、納得出来る。
しかしこんな危険地区にたった一人の少女が無事にクレドに会えたことが、奇跡に近い。
いや、もしかすると目に見えていないだけで、無事ではなかったのかもしれない。
言い様のない不安が拭えず、クレドはキリエの小さな手をぎゅっと握り締めた。
「とりあえず傷の手当てね。二人とも、出ていきな」
またして自分が率先してキリエの面倒を見ようとするジュリナに、クレドは不満そうに彼女を見る。
女のシャルレには、ジュリナの言わんとすることがわかる。
恐らくパジャマで隠れているだけで、キリエは体中に傷を作っているのだろう。
それはなんとなくクレドにもわかったが、心配でならないのだ。
片時も離れなくない。
「……わかった」
しかしジュリナ相手ではどうも強く出られず、二人は渋々と寝室から出て行った。
彼女は横たわる少女を見て、いろんな思いを巡らせる。
4年間見守り世話を見た青年が、必死に捜し続けた少女。
自分の身体すら犠牲にして、危険を承知の上にここにいることを望んだ。
そこまで彼が少女に執着する理由はわからなかった。
実際見てみれば、綺麗な容姿だ。
非の打ち所のない顔立ちに、柔からいロングヘアー。
何処か儚げな雰囲気が、守りたいという庇護欲にかられるのだろうか。
一緒にいた時間はたったの5年。
ほぼキリエが生まれてから一緒だとしても、離れて暮らした時間の方が遥かに長い。
逆にその長すぎた時間の所為で、クレドは執着したのだろうか。
理解できない若人の純粋な気持ちに、溜め息をつきながらキリエのパジャマを脱がせた。
フランツ家から此処までの道のりを考えると、この傷だらけの身体も仕方ない。
何度も転んで、擦り傷を作り、体調を崩したに違いない。
彼女もまたここまでして彼に会いに来た。
年をとった所為なのかしら、と考えて嫌気がさす。
大人になって数年経ち、29歳になった自分にはわからない青年達の想いは、どこまでも白いものだと痛感した。
膝、腕、背中、腹部、特に足の損傷は酷い。
ここへ来た時は素足だったのだ。
ということはずっと靴も履かずにやってきたのだ。
傷を消毒して、包帯を両足に巻き終わった所で不貞腐れていたクレドとそれを上手く宥めるシャルレを呼び戻した。
「キリエの傷は?」
「大丈夫よ。ただ足が腫れてるから、暫くは歩かない方が良いんじゃない?」
「そう……」
「どうするの? 連れて帰るの? 此処に置くの?」
答えはわかり切っていたが、建前として一応聞いておく。
即答で「連れて帰る」と言ったクレド。
クレドは今日の仕事を全部キャンセルして、シャルレに3万カイルが入った封筒を返した。
キリエを抱き上げると、彼女が起きてしまわないようにゆっくりとした足取りで歩き出した。
「仕事復帰の時は連絡を入れてちょうだい。今日の客のご機嫌取りでもしてもらうわ」
「わかった」
少しだけジュリナの方に振り返り、小さく頷く。
唯一の宝物を腕に抱き、青年はこの穢れた娼館から逃げるように去った。