FatasyDesire~ファンタジー・ディザイア~
「あ、ここに住むならフードのある服もいるんじゃない?」
クレドの両腕にある洋服を見て、トーマは思いついたように言った。
此処ではいつか顔を隠してやり過ごさなければならない局面がくる。
できればそんな目に遭わせたくはないが、絶対に来ないという保証はできない。
現にクレドはいつも藍色の使い込んだフード付き襟巻きを首の周りに巻いている。
「キリエちゃんには、うーん……これが良いんじゃない?」
トーマは何着もある中の一つのポンチョを取り出して、それをキリエの前に広げた。
まるで童話の赤頭巾のような、真っ赤な生地に結び目に大きなリボンが出来るようになっているものだ。
至ってシンプルだが、色とリボンで華やかさが出るし、何よりキリエのような美少女ならば何でも似合うだろう、とトーマは考えた。
「かわいい……絵本で前に見たことあるよ」
キリエは一目でそれを気に入ったらしく、ねだるようにクレドを見た。
自分以外の男が選んだ物という点で非常に不愉快だが、キリエの笑顔のため、クレドはそれも購入した。
全額で結構な値段になったが、クレドにとってなんてことない値段である。
キリエ捜索のために貯めていた資金も必要なくなったわけだし、それを彼女の為に使ってもまだまだ有り余る程である。
残る下着は、キリエは流石に自分一人で選ぶと言って男二人を残してランジェリーコーナーに行ってしまった。
「下着まで選んでやりたいとか思ってないよね、クレド」
「……まさか」
「なーに、その間は」
若干怪しい遣り取りをしながら、キリエを待った。
買い物籠に数着のランジェリーを入れて戻ってきた彼女は、恥ずかしそうに中を見られないよう背にそれを隠していた。
会計でトーマに全部見られたキリエは少しショックを受け、顔を赤くしていた。
「はい、どーぞ?」
しかし女性下着くらいなんて事ない彼は何も変わらない様子で、彼女に買い物袋を差し出す。
おずおずと手を伸ばすキリエに、クレドは一瞬荷物を持ってやろうかと親切心で思ったが、どうやらこれは持たない方が良いらしいと理解した。
ランジェリーはキリエが持ち、それ以外は全てクレドが持ってスピカを出た。
「ありがとうクレド。かわいいのいっぱい買っちゃった」
クレドは嬉しそうにする彼女を見られるだけで十分という風に慈愛に満ちたように微笑む。
「どういたしまして。とりあえずその格好じゃ何だし、帰ろうか」
もう一度空いている方の手で二人は手を繋いだ。
キリエの方は小さい頃の名残りで特別な何かはないが、クレドにとっては心配と同時に下心も少なからずある。
男女の性[サガ]の違いも当然あるのだから、そう思うのは普通なんだろう。
自宅に着くと、キリエはすぐに風呂場に篭って悪戦苦闘しながら買ってきた服に着替えた。
まるでおもちゃを買ってもらった子どものように、鏡の前でくるくると回ってみたり、ニコリと微笑んでみたりする。
癖毛の髪を手櫛で梳かして、風呂場から出る。
「どうかなクレド。似合ってるかな」
クレドが選んだワンピースの裾で持って、披露してみせる。
それを見たクレドは穏やかに笑う。
「似合ってる、可愛いよ」
「ほんと?」
「本当」
キリエは嬉しそうに頬を緩ませ、少し硬いソファーに腰掛ける。
細い足をぷらぷらと動かし、落ち着きなく体をリズムに乗せたように左右に動かしている。
キリエは昔より更に綺麗になった。
けれどもその本質はまだ残ったままで、クレドが見抜くのは簡単だった。
しかしクレドは違う。
外見も背が高くなったし、昔よりはガッシリと逞しくなった。
中身だって変わっていないのはキリエを想う気持ちくらいだ。
面影なんてものはとっくに消え失せたのに、何故キリエはクレドをただ一目見ただけで見抜けたのだろうか。
彼にはそれが不思議でならなかった。
いや、不思議というよりも驚いたのかもしれない。
きっとガーネットの者が彼を見ても"クレド"であるとは気付かないだろうから。
キリエはソファーの上で、先程購入した物の包みをガサガサと開いている。
満足そうにそれらを眺めてはクレドに笑い掛ける。
もちろん微笑み返すクレドだが、彼にはどうしても彼女に訊かなくてはならないことがある。
もしかすると嫌がる質問をするかもしれない。
クレドはそんなキリエを想像しただけで胸が痛くなる。
けれどそれを訊く権利が、クレドにはあるはずだから。
クレドの両腕にある洋服を見て、トーマは思いついたように言った。
此処ではいつか顔を隠してやり過ごさなければならない局面がくる。
できればそんな目に遭わせたくはないが、絶対に来ないという保証はできない。
現にクレドはいつも藍色の使い込んだフード付き襟巻きを首の周りに巻いている。
「キリエちゃんには、うーん……これが良いんじゃない?」
トーマは何着もある中の一つのポンチョを取り出して、それをキリエの前に広げた。
まるで童話の赤頭巾のような、真っ赤な生地に結び目に大きなリボンが出来るようになっているものだ。
至ってシンプルだが、色とリボンで華やかさが出るし、何よりキリエのような美少女ならば何でも似合うだろう、とトーマは考えた。
「かわいい……絵本で前に見たことあるよ」
キリエは一目でそれを気に入ったらしく、ねだるようにクレドを見た。
自分以外の男が選んだ物という点で非常に不愉快だが、キリエの笑顔のため、クレドはそれも購入した。
全額で結構な値段になったが、クレドにとってなんてことない値段である。
キリエ捜索のために貯めていた資金も必要なくなったわけだし、それを彼女の為に使ってもまだまだ有り余る程である。
残る下着は、キリエは流石に自分一人で選ぶと言って男二人を残してランジェリーコーナーに行ってしまった。
「下着まで選んでやりたいとか思ってないよね、クレド」
「……まさか」
「なーに、その間は」
若干怪しい遣り取りをしながら、キリエを待った。
買い物籠に数着のランジェリーを入れて戻ってきた彼女は、恥ずかしそうに中を見られないよう背にそれを隠していた。
会計でトーマに全部見られたキリエは少しショックを受け、顔を赤くしていた。
「はい、どーぞ?」
しかし女性下着くらいなんて事ない彼は何も変わらない様子で、彼女に買い物袋を差し出す。
おずおずと手を伸ばすキリエに、クレドは一瞬荷物を持ってやろうかと親切心で思ったが、どうやらこれは持たない方が良いらしいと理解した。
ランジェリーはキリエが持ち、それ以外は全てクレドが持ってスピカを出た。
「ありがとうクレド。かわいいのいっぱい買っちゃった」
クレドは嬉しそうにする彼女を見られるだけで十分という風に慈愛に満ちたように微笑む。
「どういたしまして。とりあえずその格好じゃ何だし、帰ろうか」
もう一度空いている方の手で二人は手を繋いだ。
キリエの方は小さい頃の名残りで特別な何かはないが、クレドにとっては心配と同時に下心も少なからずある。
男女の性[サガ]の違いも当然あるのだから、そう思うのは普通なんだろう。
自宅に着くと、キリエはすぐに風呂場に篭って悪戦苦闘しながら買ってきた服に着替えた。
まるでおもちゃを買ってもらった子どものように、鏡の前でくるくると回ってみたり、ニコリと微笑んでみたりする。
癖毛の髪を手櫛で梳かして、風呂場から出る。
「どうかなクレド。似合ってるかな」
クレドが選んだワンピースの裾で持って、披露してみせる。
それを見たクレドは穏やかに笑う。
「似合ってる、可愛いよ」
「ほんと?」
「本当」
キリエは嬉しそうに頬を緩ませ、少し硬いソファーに腰掛ける。
細い足をぷらぷらと動かし、落ち着きなく体をリズムに乗せたように左右に動かしている。
キリエは昔より更に綺麗になった。
けれどもその本質はまだ残ったままで、クレドが見抜くのは簡単だった。
しかしクレドは違う。
外見も背が高くなったし、昔よりはガッシリと逞しくなった。
中身だって変わっていないのはキリエを想う気持ちくらいだ。
面影なんてものはとっくに消え失せたのに、何故キリエはクレドをただ一目見ただけで見抜けたのだろうか。
彼にはそれが不思議でならなかった。
いや、不思議というよりも驚いたのかもしれない。
きっとガーネットの者が彼を見ても"クレド"であるとは気付かないだろうから。
キリエはソファーの上で、先程購入した物の包みをガサガサと開いている。
満足そうにそれらを眺めてはクレドに笑い掛ける。
もちろん微笑み返すクレドだが、彼にはどうしても彼女に訊かなくてはならないことがある。
もしかすると嫌がる質問をするかもしれない。
クレドはそんなキリエを想像しただけで胸が痛くなる。
けれどそれを訊く権利が、クレドにはあるはずだから。