FatasyDesire~ファンタジー・ディザイア~
フォレストで有名な男娼が連れて歩く少女。
客と男娼という関係性だと思う者ばかりだろう。
こうして歩いていても、普通の恋人同士だと間違われないことが忌々しい。
しかしクレドの恋人だと勘違いをされれば、それはそれで厄介だろう。
自分を殺そうとした男や女が過去にいたことは間違いないし、今だって自分を良く思っていない人間なんて腐る程いるはずだ。
もしその矛先をキリエに向けられたら?
それを考えただけでクレドは恐ろしくなる。
自分の身を守る術を持たない彼女が狙われれば、100%の可能性で殺されるか、犯されるかのどちらかだ。
無法地帯では犯罪など関係ない。
暫く歩いていると二人はトーマが営むスピカに入って行った。
いつも愛想の良い笑みを浮かべて迎える色男だが、今日ばかりは驚きの色を見せる。
空色の瞳を見開いて、目の前にいる二人を見比べているのだ。
あのクレドがこんなに純真無垢そうな少女を連れているのだ。
そりゃ驚くのも無理はない。
「え? まさかついに恋人つくったの? 幼馴染みは?」
クレドがキリエを捜していることを知っていたトーマは、失望したというように大袈裟にこめかみに手を添えてみせた。
クレド以外の人を初めて見るキリエは少し恥ずかしそうに彼の背に隠れる。
「……これがそのキリエなんだけど」
「え!? 本当に? 見付かったの?」
「そう、3日前に」
トーマはいつも座る椅子から立ち上がると、ゆっくりとクレドとキリエに近付いた。
キリエはギュッとクレドの服を掴む。
初対面の男を前に緊張しているのだ。
そっと顔を除かせる彼女に、トーマはお得意の甘い微笑みを浮かべて彼女の目線に合わせて屈む。
「初めまして。俺はトーマ。ここの店長だよ、よろしくね」
「キリエです……よろしくおねがいします」
恥ずかしそうに挨拶をするキリエを見て、トーマもまた父性を煽られたのか、思わずその小さな頭を撫でたい衝動に駆られた。
「可愛いね。想像してたよりずっと可愛い娘でビックリしたよ」
フォレスト1の遊び人の言葉に、クレドは右眉を跳ね上がらせ、トーマを睨み付けた。
もちろんキリエには見られないように。
"手を出したら容赦しない"と言われているようで、トーマは苦笑して軽く両手を挙げる。
「大丈夫だよ。君の大切な娘にはちょっかいなんて出さないよ」
「どうだか……」
クレドの仕事中、客と歩いていて偶然トーマに会う時がたまにあるのだが、その女性を気に入ればトーマは必ず口説き落とすのだ。
口下手でキリエ以外の女には滅法興味の無い彼よりも、構ってくれそうなトーマに流れる客は実際多かった。
何度それでキャンセルされたことか。
信用できそうで、いまいち信用を置くに足りない胡散臭い商売人だ。
「今日はキリエちゃんの洋服買いかい?」
まるで彼氏の服を借りて着ている彼女のようだな、とトーマは色目でキリエを見る。
その視線に気付いたクレドは再度彼を睨む。
「睨まないでくれるかな、クレド。ほら、服を買うんだろう?」
トーマは微笑を絶やさず、二人を婦人服のコーナーに案内する。
当然フォレスト1の何でも屋であるスピカは、ジュニアからティーン、シニアの服まで揃っている。
「好きな服選んで良いよ」
クレドの言葉にパァっと笑顔を見せるキリエは、いそいそとハンガーに掛かった洋服何着も取り出しながら見極め出した。
洋服選びに夢中になるキリエを微笑ましく眺めながら、トーマはクレドの隣に並んだ。
「何キャラなの、クレド。何だい? さっき優しい言い方は」
出逢った当初でしか見られなかった優しさを見たトーマは、笑いを噛み締めたように震えた声で言う。
「うるさい。刺すぞ」
ベルトに掛かったナイフの柄に手を掛けたクレドに、トーマは困ったような笑みを浮かべる。
「君も一人の女の子相手を前には、優しさを取り戻すこともあるんだね」
出逢った当初、クレドは道端に野垂れる人を見放せず、それをトーマに窘[タシナ]められたことがあった。
『いちいちそんなのに構ってたら、キリないよ。放っておきな』
それが今やフォレスト内では恐れられ、綺麗だと憧れを持たれ、憎いと嫉妬の対象となったのだ。
あの何も知らないような純情な少年が、大切な物の為に数年でこうも黒く荒んでいった。
彼が全てを捨ててまで欲しがった物が、今目の前にいる数年前の少年と同じような白い少女。
毎日泣きそうな顔をして、残酷な事をする度心を痛めていた優しくも弱い少年は、もういない。
少年はたった一つの宝物の為にこんなにも強くなり、獣にも似た頼もしさと非情を携えた。
「クレド、これとこれ、どっちが良いかな?」
キリエは二つの洋服で迷っているらしく、クレドに決めてと促す。
クレドからしてみれば、どっちも似合うというのが意見である。
「悩むならどっちも買うよ。他は? もっと買っていいよ」
自分とキリエの扱いの差に、トーマはまた笑う。
それを気付きつつも、クレドは無視して続ける。
「パジャマとか、靴とか、下着とか、いろいろ必要だろ?」
「うん……でもそんなに買っていいの?」
「いいよ。金の心配なら、大丈夫だから」
クレドくらいの男娼ともなると、もう金銭で苦労はしないのだ。
更に此処スピカなら、トーマの友人ということでいつも割安で購入している。
何故かトーマは出逢った当初から今日までずっと、何かとクレドの世話を焼いている。
商売に粘着質な彼ならば、割安など有り得ないことだ。
結局キリエは似通った洋服を買った。
デザインの違うブラウスを5着、動きやすいが可愛らしいデザインのハーフパンツ3本、スカートを2着、ブーツを2足、靴下やタイツ、パジャマとネグリジェを買った。
後はクレドの趣味でワンピースを3着程。
客と男娼という関係性だと思う者ばかりだろう。
こうして歩いていても、普通の恋人同士だと間違われないことが忌々しい。
しかしクレドの恋人だと勘違いをされれば、それはそれで厄介だろう。
自分を殺そうとした男や女が過去にいたことは間違いないし、今だって自分を良く思っていない人間なんて腐る程いるはずだ。
もしその矛先をキリエに向けられたら?
それを考えただけでクレドは恐ろしくなる。
自分の身を守る術を持たない彼女が狙われれば、100%の可能性で殺されるか、犯されるかのどちらかだ。
無法地帯では犯罪など関係ない。
暫く歩いていると二人はトーマが営むスピカに入って行った。
いつも愛想の良い笑みを浮かべて迎える色男だが、今日ばかりは驚きの色を見せる。
空色の瞳を見開いて、目の前にいる二人を見比べているのだ。
あのクレドがこんなに純真無垢そうな少女を連れているのだ。
そりゃ驚くのも無理はない。
「え? まさかついに恋人つくったの? 幼馴染みは?」
クレドがキリエを捜していることを知っていたトーマは、失望したというように大袈裟にこめかみに手を添えてみせた。
クレド以外の人を初めて見るキリエは少し恥ずかしそうに彼の背に隠れる。
「……これがそのキリエなんだけど」
「え!? 本当に? 見付かったの?」
「そう、3日前に」
トーマはいつも座る椅子から立ち上がると、ゆっくりとクレドとキリエに近付いた。
キリエはギュッとクレドの服を掴む。
初対面の男を前に緊張しているのだ。
そっと顔を除かせる彼女に、トーマはお得意の甘い微笑みを浮かべて彼女の目線に合わせて屈む。
「初めまして。俺はトーマ。ここの店長だよ、よろしくね」
「キリエです……よろしくおねがいします」
恥ずかしそうに挨拶をするキリエを見て、トーマもまた父性を煽られたのか、思わずその小さな頭を撫でたい衝動に駆られた。
「可愛いね。想像してたよりずっと可愛い娘でビックリしたよ」
フォレスト1の遊び人の言葉に、クレドは右眉を跳ね上がらせ、トーマを睨み付けた。
もちろんキリエには見られないように。
"手を出したら容赦しない"と言われているようで、トーマは苦笑して軽く両手を挙げる。
「大丈夫だよ。君の大切な娘にはちょっかいなんて出さないよ」
「どうだか……」
クレドの仕事中、客と歩いていて偶然トーマに会う時がたまにあるのだが、その女性を気に入ればトーマは必ず口説き落とすのだ。
口下手でキリエ以外の女には滅法興味の無い彼よりも、構ってくれそうなトーマに流れる客は実際多かった。
何度それでキャンセルされたことか。
信用できそうで、いまいち信用を置くに足りない胡散臭い商売人だ。
「今日はキリエちゃんの洋服買いかい?」
まるで彼氏の服を借りて着ている彼女のようだな、とトーマは色目でキリエを見る。
その視線に気付いたクレドは再度彼を睨む。
「睨まないでくれるかな、クレド。ほら、服を買うんだろう?」
トーマは微笑を絶やさず、二人を婦人服のコーナーに案内する。
当然フォレスト1の何でも屋であるスピカは、ジュニアからティーン、シニアの服まで揃っている。
「好きな服選んで良いよ」
クレドの言葉にパァっと笑顔を見せるキリエは、いそいそとハンガーに掛かった洋服何着も取り出しながら見極め出した。
洋服選びに夢中になるキリエを微笑ましく眺めながら、トーマはクレドの隣に並んだ。
「何キャラなの、クレド。何だい? さっき優しい言い方は」
出逢った当初でしか見られなかった優しさを見たトーマは、笑いを噛み締めたように震えた声で言う。
「うるさい。刺すぞ」
ベルトに掛かったナイフの柄に手を掛けたクレドに、トーマは困ったような笑みを浮かべる。
「君も一人の女の子相手を前には、優しさを取り戻すこともあるんだね」
出逢った当初、クレドは道端に野垂れる人を見放せず、それをトーマに窘[タシナ]められたことがあった。
『いちいちそんなのに構ってたら、キリないよ。放っておきな』
それが今やフォレスト内では恐れられ、綺麗だと憧れを持たれ、憎いと嫉妬の対象となったのだ。
あの何も知らないような純情な少年が、大切な物の為に数年でこうも黒く荒んでいった。
彼が全てを捨ててまで欲しがった物が、今目の前にいる数年前の少年と同じような白い少女。
毎日泣きそうな顔をして、残酷な事をする度心を痛めていた優しくも弱い少年は、もういない。
少年はたった一つの宝物の為にこんなにも強くなり、獣にも似た頼もしさと非情を携えた。
「クレド、これとこれ、どっちが良いかな?」
キリエは二つの洋服で迷っているらしく、クレドに決めてと促す。
クレドからしてみれば、どっちも似合うというのが意見である。
「悩むならどっちも買うよ。他は? もっと買っていいよ」
自分とキリエの扱いの差に、トーマはまた笑う。
それを気付きつつも、クレドは無視して続ける。
「パジャマとか、靴とか、下着とか、いろいろ必要だろ?」
「うん……でもそんなに買っていいの?」
「いいよ。金の心配なら、大丈夫だから」
クレドくらいの男娼ともなると、もう金銭で苦労はしないのだ。
更に此処スピカなら、トーマの友人ということでいつも割安で購入している。
何故かトーマは出逢った当初から今日までずっと、何かとクレドの世話を焼いている。
商売に粘着質な彼ならば、割安など有り得ないことだ。
結局キリエは似通った洋服を買った。
デザインの違うブラウスを5着、動きやすいが可愛らしいデザインのハーフパンツ3本、スカートを2着、ブーツを2足、靴下やタイツ、パジャマとネグリジェを買った。
後はクレドの趣味でワンピースを3着程。