FatasyDesire~ファンタジー・ディザイア~
そして陽が傾き始めた薄暮時。
――ヨシュアは昨日と同じ場所にやってきた。
青い髪を闇に晒し、その闇によく似合う笑みを口元に携えている。
人より少し尖った八重歯がまるで狂犬やコウモリのように鈍く光る。
「……ヨシュア……?」
ヨシュアはあの窓に手を伸ばすと同時に、ガラスの向こうから透き通った声が聞こえた。
その声に眉間に皴を刻み、伸ばした手を止めると、向こう側から窓に両手を付けた影が見えた。
自分よりも随分小さい手に、少女は自分よりいくつ年下なのかとか、あの男娼はロリコンなのかとか、そんなことを考えた。
「来てくれたの?」
「……アイツには言ってねえだろうな」
「うん、言ってないよ。わたし、ヨシュアと友達になりたいもん」
「そーかよ」
今からこの少女を利用する。
とりあえずクレドに関する記憶を覗き見て、弱味を握れたらいい。
何が何でもクレドを潰す。
トルガー盗賊団は、何が何でもあんな男に潰させない。
本当の家族ではないけれど、ヨシュアの居場所はトルガー盗賊団以外何処にもない。
ガラハドや、義父、捨て去った彼女、その他大勢の居場所をあの男に奪われるわけにはいかなかった。
悪い芽は早めに摘むに限るのだ。
「ヤクソクだ。早くここを開けろ」
そう言うと、少女の影は素直にこの窓の鍵を開けた。
カラカラ、と乾いた音を立てながら開いていく窓ガラス。
淵と窓の間から白く小さな手、腕、柔らかそうな猫毛が見え、ヨシュアは想像よりもずっと繊細で浮世離れしたそれに目を奪われた。
やがて全ての姿を現した少女に、ヨシュアは不覚にも時間を忘れてしまったように固まった。
あのクレドが傍に置くくらいなのだからある程度の美少女なのだろうと踏んでいたが、それよりもずっとずっと綺麗で可憐な容姿と雰囲気だったのだ。
まだまだ幼さは残るが、それでも少女は綺麗だった。
「……ヨシュア?」
不愉快なだけだったはずの声が、やけにヨシュアの鼓膜に響いた。
ヨシュアはハッとなり、慌てて口を開いた。
「キリエ、で、イイんだな」
改めて少女の名前を口に出すと、何故か無性に気恥ずかしい気分になった。
「うん! はじめまして。これからよろしくね」
スッと差し出された右手に、ヨシュアはほんの少しだけ戸惑うが、すぐにそれを一瞥して「ふん」とそっぽを向いた。
「……あくしゅ、しないの?」
少し寂しそうに言うキリエは、残念そうに呟く。
「しねーよバカか。オラ、付いて来いよ」
キリエは何故自分はバカと言われたのだろうとキョトンと首を傾げて、当の本人を見上げる。
ヨシュアはクルリと自分に背を向け、顔だけこちらに振り返っている。
「どこいくの?」
「どっかそこらへん」
そう聞いて、キリエはクレドの言い付けを思い出すが、もう既に一つ破ってしまっている。
誰が来ても決して相手にしてはいけないこと。
でも本より破るつもりでいたのだから、この際ヨシュアに付いて行ってみるのも良い。
クレドが帰ってくる前に戻れば問題ないのではないだろうか。
キリエは甘すぎる考えを信じ、その窓の向こうへと足を踏み出した。
――ヨシュアは昨日と同じ場所にやってきた。
青い髪を闇に晒し、その闇によく似合う笑みを口元に携えている。
人より少し尖った八重歯がまるで狂犬やコウモリのように鈍く光る。
「……ヨシュア……?」
ヨシュアはあの窓に手を伸ばすと同時に、ガラスの向こうから透き通った声が聞こえた。
その声に眉間に皴を刻み、伸ばした手を止めると、向こう側から窓に両手を付けた影が見えた。
自分よりも随分小さい手に、少女は自分よりいくつ年下なのかとか、あの男娼はロリコンなのかとか、そんなことを考えた。
「来てくれたの?」
「……アイツには言ってねえだろうな」
「うん、言ってないよ。わたし、ヨシュアと友達になりたいもん」
「そーかよ」
今からこの少女を利用する。
とりあえずクレドに関する記憶を覗き見て、弱味を握れたらいい。
何が何でもクレドを潰す。
トルガー盗賊団は、何が何でもあんな男に潰させない。
本当の家族ではないけれど、ヨシュアの居場所はトルガー盗賊団以外何処にもない。
ガラハドや、義父、捨て去った彼女、その他大勢の居場所をあの男に奪われるわけにはいかなかった。
悪い芽は早めに摘むに限るのだ。
「ヤクソクだ。早くここを開けろ」
そう言うと、少女の影は素直にこの窓の鍵を開けた。
カラカラ、と乾いた音を立てながら開いていく窓ガラス。
淵と窓の間から白く小さな手、腕、柔らかそうな猫毛が見え、ヨシュアは想像よりもずっと繊細で浮世離れしたそれに目を奪われた。
やがて全ての姿を現した少女に、ヨシュアは不覚にも時間を忘れてしまったように固まった。
あのクレドが傍に置くくらいなのだからある程度の美少女なのだろうと踏んでいたが、それよりもずっとずっと綺麗で可憐な容姿と雰囲気だったのだ。
まだまだ幼さは残るが、それでも少女は綺麗だった。
「……ヨシュア?」
不愉快なだけだったはずの声が、やけにヨシュアの鼓膜に響いた。
ヨシュアはハッとなり、慌てて口を開いた。
「キリエ、で、イイんだな」
改めて少女の名前を口に出すと、何故か無性に気恥ずかしい気分になった。
「うん! はじめまして。これからよろしくね」
スッと差し出された右手に、ヨシュアはほんの少しだけ戸惑うが、すぐにそれを一瞥して「ふん」とそっぽを向いた。
「……あくしゅ、しないの?」
少し寂しそうに言うキリエは、残念そうに呟く。
「しねーよバカか。オラ、付いて来いよ」
キリエは何故自分はバカと言われたのだろうとキョトンと首を傾げて、当の本人を見上げる。
ヨシュアはクルリと自分に背を向け、顔だけこちらに振り返っている。
「どこいくの?」
「どっかそこらへん」
そう聞いて、キリエはクレドの言い付けを思い出すが、もう既に一つ破ってしまっている。
誰が来ても決して相手にしてはいけないこと。
でも本より破るつもりでいたのだから、この際ヨシュアに付いて行ってみるのも良い。
クレドが帰ってくる前に戻れば問題ないのではないだろうか。
キリエは甘すぎる考えを信じ、その窓の向こうへと足を踏み出した。