FatasyDesire~ファンタジー・ディザイア~
「いつ、つ……?」


 ただ驚いているクレドに、キリエは何とも居心地悪そうに頷く。


 やはり彼も自分を気味が悪いと思ったのだろうか、そう不安になったキリエは怖くて顔を上げられない。



 パンドラの中にも種類がある。

 生まれながらのパンドラと、二人のような途中発見。
 何の役にも立たないパンドラに、殺傷能力しかないパンドラ、人を助けるパンドラ。
 力の強弱も、コントロールが上手いパンドラも下手くそなパンドラも。

 そして一つしかパンドラを持っていない人間と、二つのパンドラを持つ人間。


 クレドはパンドラを種類で分けるなら上記だけだと思っていた。


 勝手に5つもパンドラを有する人間なんていないと断定していたのだ。




 狭い世界で暮らしてきたクレドは周りが思うよりも、ずっと世間知らずであった。


 故に複数個のパンドラを所有していた太古の偉人がいたことも、知らなかったのだ。



「……かくしててごめんなさい……。でもわたし、クレドにこわがられたくなくて」


 そこでクレドはハッとなり、慌ててキリエの頭を撫でた。


 何もキリエを怖がったわけではない。
 ただ告げられた事実に驚いてしまっただけだ。




「大丈夫。俺はキリエを怖がってないよ。……キリエがどんな人間であっても、俺の気持ちは何ひとつも変わらないから」


 キリエは少しだけ顔をあげて、チラリとクレドを見上げる。


「ほんと……?」


「うん、本当だ」



 それを聞いたキリエは潤ませた瞳をぐっと細め、それからようやくふにゃりと微笑んだ。





 ――俺以外の前で、パンドラを使うな


 以前クレドとそう約束したキリエは、無意識か、ヨシュアに殺されそうになった時もパンドラを使おうとしなかった。


 しかし、これもまた無意識に、クレドが殺されそうになった時は咄嗟にパンドラを使ってしまった。


 加減ができなかったとは言え、彼女のパンドラ能力値は周囲を圧倒するものだ。



「それで、他にはどんなパンドラがあるんだ?」


 クレドはやんわりと握った手を解き、キリエの隣に腰かける。


「さっきヨシュアにつかったのは、"ねんりき"っていうパンドラらしいの」


 恐らくキリエは念力の意味を把握していないであろう。


 遠隔操作も、マリオネットのように人間を操ることも造作もない力。


「それとね、後は火がでるやつと、氷をつくるやつと、風をふかせるやつ」



 ポンポンと、まるでどうでもないように言うキリエだが、クレドはすぐさまそれらの力の種類が、いかに危険なものかと考えた。




 炎、氷、風。


 パンドラの使い道によっては人を殺すことも、とても簡単なことだ。


 火災を起こすことも、生物を凍り付けにすることも、暴風を巻き起こすことも。



 もし、これがキリエではなく、私利私欲に塗れた他の悪党だったら?



 間違いなく世界は崩落の道を辿っただろう。



 治癒の力しかないと思っていた彼女は、とんでもない爆弾を抱えていた。




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