FatasyDesire~ファンタジー・ディザイア~
行く宛てもなく辿り着いた場所は、ワンドから随分離れたフォレスト。
そこでも途方に暮れた。
アヴァリティア1どころか、世界1治安の悪い町では、生きるだけで精一杯だった。
常に周囲を見張っていなければ、いつ自分が殺されるかもわからない。
何度殺されそうになったかわからない。
精神的にも肉体的にも限界が近かった時、偶然出会ったのがアリエルの女性オーナー・ジュリナであった。
20代後半のスタイルの良い妖艶美女を前に、彼は少し恐縮した。
『――あらアンタ、綺麗な顔してるわねぇ』
『――へぇ、ホームレスなの。私が拾ってあげましょうか』
『――私はジュリナ。一緒に来ると良いわ、クレド』
何もかもを放り出して生きることをも諦めようとした少年にとって、それは暗闇に差した一筋の光だったのだ。
もう一度キリエに会えるのなら、何でもする。
一人きりで泣いているかもしれない彼女を考えるだけで、自分のことの様に胸が痛んだ。
それからジュリナはクレドに男娼という仕事を用意した。
『金が必要か……アンタの精神が持つなら、男娼にでもしてあげましょうか』
『まあ、無理にとは言わないわ。アンタがやりたいなら指名を取らせてあげるけど』
知り合いでも何でもない女を抱き、それに容姿や性格を気に入られば更に給料は上がる。
自分の精神や肉体とキリエを天秤にかけるのなら、彼にとっての最優先はキリエだ。
あの日の約束は、何年経った今でも彼の中で鮮明に輝いている。
それがあるから、彼はこの貧困地区・フォレストでも生きていけるのだ。
ガーネットを出るまではただ純粋にキリエとの約束を守り、フランツ家に尋ねた時から約束は意地になり、フォレストに辿り着いた時には、それに縋り付くように執着していた。
「――じゃ……まいど」
女から5万カリスが入った封筒を受け取ると、早々と部屋から出ようとする。
「えー? もう行くのー? もうちょっと居てよ」
女は慌ててベッドから出ると脱ぎ捨てた洋服を着ようとした。
「いや、次も詰まってるから。悪いな」
クレドは軽く笑って誘いを断ると、このホテルを後にした。
まだ昼間でこれから自宅で眠るまでの間、後4人の相手をしなければならない。
以前のクレドならば、それに強烈なストレスを感じ、エスケープにでも走っていただろうが、肉体と共に成長した精神のおかげで汚い仕事にも慣れた。
身体に纏わり付いた女の香水を落とす為に、彼は日頃からよく通う万屋[ヨロズヤ]とも呼べる店・【スピカ】に向かった。
アリエルが経営するこのホテルには、無料では風呂は付いてこないのだ。
スピカで彼を出迎えたのは、フォレスト1の遊び人でも有名な色男のトーマである。
店の扉を開けると、まるで外と店内が別空間のように思える程、スピカは綺麗な店だ。
トーマはデスクに頬杖をつき、クレドを見てニヤリと口角を上げた。
「やあ。昨日振りだね。使うといいよ」
トーマは金色の綺麗な髪の毛を軽く触りながら、店の奥へ視線を送った。
クレドの悪友とも呼べるトーマは、22歳の美男子で、泣かせた女は数知れず。
金色の柔らかそうな髪の毛に、優しく垂れた目尻、その中心は蒼く澄んでいる。
色白の胸元に映えるよう垂れた銀のペンダントは、自由人の彼らしい羽根の形を象[カタド]っている。
服から文房具、食料品、医薬品、武器。何でも一通り揃った店は、フォレストでも売り上げナンバーワンの店だ。
その証拠にトーマの身に着けているアクセサリーやラフそうな洋服は、フォレストの住人では手に入れられない値段の物ばかりだ。
そのトーマに変に気に入られたクレドは、やたらと構ってくるこの色男に世話になることが多い。
スピカの奥にはトーマが住む自室が一つあり、そこのシャワールームを仕事の合間に貸してもらうのが日常になった。
シャワーをさっと浴びてから勝手にトーマの服を借りて表に出ても、トーマは何も言わずにクスリと笑う。
「そーだ。最近やたらとお前を嗅ぎ回している奴がいるらしい」
思いついたというようにトーマの口から出た言葉に、クレドは表情を変えずに首にペンダントを下げる。
「へえ……また女を寝取られたとか言う、頭の悪い男か?」
「いいや? 違う」
トーマは大層面白そうに笑いを噛み締める。
それにクレドは呆れたように溜め息をついて、彼に向き直る。
「何を面白がっている。ハッキリ言え」
あまり興味がないのか、無関心そうにクレドは自分の肩程まである髪の毛をハーフアップにして、細いゴムで3重にして結ぶ。
「さあ? ただ、若い女だとさ。お前の恋人にでもなったと勘違いした、可哀想な阿婆擦[アバズ]れなんじゃない?」
噂でしか聞いたことのない女を嘲笑するトーマの話に、クレドは更にどうでも良くなる。
女を寝取られた腹いせに自分の命を狙う輩ならば、注意して早急に対処しなければならないと思ったが、たかが女。
恐らく以前仕事で抱いた女の一人だろう。
それならば襲ってきたとしても問題ない。
武器を使わずとも始末できる。
彼は彼女に会うまで死ぬわけにはいかないのだ。
この汚い色を売る仕事は、勘違いをした女や、女性客の男に襲撃されることが多い。
初めて襲われた時はガムシャラで逃げたが、今となっては自分一人で対処できるようになった。
シースナイフの鞘[サヤ]を常にベルトに付けているから、いざとなれは相手を仕留めることができる。
このナイフもスピカで購入したものだ。
「殺されないように気をつけて」
トーマはニッコリと笑うとクレドに手を振り、クレドはそれを受け取ると背を向けて店から出た。
いつ命の危険があるかもわからない町で、何も持たずに呑気に歩けるはずもない。
現に女に刺されそうになったこともある。
警戒心の強いクレドは周囲の気配に敏感にもなった。
そこでも途方に暮れた。
アヴァリティア1どころか、世界1治安の悪い町では、生きるだけで精一杯だった。
常に周囲を見張っていなければ、いつ自分が殺されるかもわからない。
何度殺されそうになったかわからない。
精神的にも肉体的にも限界が近かった時、偶然出会ったのがアリエルの女性オーナー・ジュリナであった。
20代後半のスタイルの良い妖艶美女を前に、彼は少し恐縮した。
『――あらアンタ、綺麗な顔してるわねぇ』
『――へぇ、ホームレスなの。私が拾ってあげましょうか』
『――私はジュリナ。一緒に来ると良いわ、クレド』
何もかもを放り出して生きることをも諦めようとした少年にとって、それは暗闇に差した一筋の光だったのだ。
もう一度キリエに会えるのなら、何でもする。
一人きりで泣いているかもしれない彼女を考えるだけで、自分のことの様に胸が痛んだ。
それからジュリナはクレドに男娼という仕事を用意した。
『金が必要か……アンタの精神が持つなら、男娼にでもしてあげましょうか』
『まあ、無理にとは言わないわ。アンタがやりたいなら指名を取らせてあげるけど』
知り合いでも何でもない女を抱き、それに容姿や性格を気に入られば更に給料は上がる。
自分の精神や肉体とキリエを天秤にかけるのなら、彼にとっての最優先はキリエだ。
あの日の約束は、何年経った今でも彼の中で鮮明に輝いている。
それがあるから、彼はこの貧困地区・フォレストでも生きていけるのだ。
ガーネットを出るまではただ純粋にキリエとの約束を守り、フランツ家に尋ねた時から約束は意地になり、フォレストに辿り着いた時には、それに縋り付くように執着していた。
「――じゃ……まいど」
女から5万カリスが入った封筒を受け取ると、早々と部屋から出ようとする。
「えー? もう行くのー? もうちょっと居てよ」
女は慌ててベッドから出ると脱ぎ捨てた洋服を着ようとした。
「いや、次も詰まってるから。悪いな」
クレドは軽く笑って誘いを断ると、このホテルを後にした。
まだ昼間でこれから自宅で眠るまでの間、後4人の相手をしなければならない。
以前のクレドならば、それに強烈なストレスを感じ、エスケープにでも走っていただろうが、肉体と共に成長した精神のおかげで汚い仕事にも慣れた。
身体に纏わり付いた女の香水を落とす為に、彼は日頃からよく通う万屋[ヨロズヤ]とも呼べる店・【スピカ】に向かった。
アリエルが経営するこのホテルには、無料では風呂は付いてこないのだ。
スピカで彼を出迎えたのは、フォレスト1の遊び人でも有名な色男のトーマである。
店の扉を開けると、まるで外と店内が別空間のように思える程、スピカは綺麗な店だ。
トーマはデスクに頬杖をつき、クレドを見てニヤリと口角を上げた。
「やあ。昨日振りだね。使うといいよ」
トーマは金色の綺麗な髪の毛を軽く触りながら、店の奥へ視線を送った。
クレドの悪友とも呼べるトーマは、22歳の美男子で、泣かせた女は数知れず。
金色の柔らかそうな髪の毛に、優しく垂れた目尻、その中心は蒼く澄んでいる。
色白の胸元に映えるよう垂れた銀のペンダントは、自由人の彼らしい羽根の形を象[カタド]っている。
服から文房具、食料品、医薬品、武器。何でも一通り揃った店は、フォレストでも売り上げナンバーワンの店だ。
その証拠にトーマの身に着けているアクセサリーやラフそうな洋服は、フォレストの住人では手に入れられない値段の物ばかりだ。
そのトーマに変に気に入られたクレドは、やたらと構ってくるこの色男に世話になることが多い。
スピカの奥にはトーマが住む自室が一つあり、そこのシャワールームを仕事の合間に貸してもらうのが日常になった。
シャワーをさっと浴びてから勝手にトーマの服を借りて表に出ても、トーマは何も言わずにクスリと笑う。
「そーだ。最近やたらとお前を嗅ぎ回している奴がいるらしい」
思いついたというようにトーマの口から出た言葉に、クレドは表情を変えずに首にペンダントを下げる。
「へえ……また女を寝取られたとか言う、頭の悪い男か?」
「いいや? 違う」
トーマは大層面白そうに笑いを噛み締める。
それにクレドは呆れたように溜め息をついて、彼に向き直る。
「何を面白がっている。ハッキリ言え」
あまり興味がないのか、無関心そうにクレドは自分の肩程まである髪の毛をハーフアップにして、細いゴムで3重にして結ぶ。
「さあ? ただ、若い女だとさ。お前の恋人にでもなったと勘違いした、可哀想な阿婆擦[アバズ]れなんじゃない?」
噂でしか聞いたことのない女を嘲笑するトーマの話に、クレドは更にどうでも良くなる。
女を寝取られた腹いせに自分の命を狙う輩ならば、注意して早急に対処しなければならないと思ったが、たかが女。
恐らく以前仕事で抱いた女の一人だろう。
それならば襲ってきたとしても問題ない。
武器を使わずとも始末できる。
彼は彼女に会うまで死ぬわけにはいかないのだ。
この汚い色を売る仕事は、勘違いをした女や、女性客の男に襲撃されることが多い。
初めて襲われた時はガムシャラで逃げたが、今となっては自分一人で対処できるようになった。
シースナイフの鞘[サヤ]を常にベルトに付けているから、いざとなれは相手を仕留めることができる。
このナイフもスピカで購入したものだ。
「殺されないように気をつけて」
トーマはニッコリと笑うとクレドに手を振り、クレドはそれを受け取ると背を向けて店から出た。
いつ命の危険があるかもわからない町で、何も持たずに呑気に歩けるはずもない。
現に女に刺されそうになったこともある。
警戒心の強いクレドは周囲の気配に敏感にもなった。