銀の精霊・森の狂王・時々、邪神
 マティルダちゃんは懐かしそうな、そして寂しそうな表情で肖像画を見上げている。

 ヴァニスが気遣うように、そんな妹を見ていた。

 ……なんて言えばいいんだろう。こんな時。家族を失ってしまった女の子に対して。

 肖像画は、過去の記憶だ。
 かつて紛れも無くそこに存在していた、幸福な時間の証。

 でも今はもう、どこにもない。
 どんなに探しても、どこにもいないのに……それが形を変えて、目の前にある。

 その切なく、もどかしい痛み。
 そんな痛みをこの子は絵を見る度に感じている。

 胸が痛むのが分かっていても、それでも見るのをやめられないのね……。

「ご立派そうなお父様ね。とても綺麗なお母様だわ」

「ええ」

「それに賢そうなお兄様達ね。でも……」

「でも?」

「けっこう、からかわれてイタズラされたでしょ?」

「……」

「でも、お父様もお母様も、お兄様たちを叱りはしても、怒らないのよね」

「……ど、どうして」

「そして、いつも笑って言うの。兄弟なんだから仲良くしなさいって」

「どうして知ってるの!?」


 マティルダちゃんが驚いたように叫んだ。

「雫さま、お父様たちの事を知っていたの!?」

 興奮する表情に向かって、あたしは静かに微笑んだ。

「知ってるんじゃなくて分かるのよ」

「分かる? どうして?」

「マティルダちゃんを見ていれば、すぐ分かるの」

「なぜ?」

「それは、マティルダちゃんが家族の事を覚えているからよ」
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