銀の精霊・森の狂王・時々、邪神
キョトンとする目を見ながら、あたしは語り続けた。

「覚えているって事はね、失っていないって事と同じなの」

「失っていない?」

「ええ。愛された事実も、幸せだった時間も、忘れてしまわない限り無くなってしまう事なんかないから」

「……」

「だからマティルダちゃんは、無くしていないの。一杯持ってるのよ。今も」

「無くしてない……今も……」

「あたしがひと目見ただけですぐ分かるぐらい、あなたは今でも、皆の深い愛情に満ちているのよ」

 分かってもらえるだろうか。この意味を。

 ……無理かもしれない。

 あたし自身、ちゃんと理解してない事だから、うまく言葉にできなかったし。

 うまく説明できないけど、失う事と、完全に『消失』してしまう事とは違うと思う。

 残ったものはあるはずだ。間違いなく。

 それが大切であればあるほど、抱えている事は辛いかもしれないけれど。

 抱え続ける限り『証』は無くならない。

 無くしていないなら残ってる。存在してる。きっと、どこかに。

 自分でも想像もつかないくらい、とても深いところに……。

「ご、ごめんね。あたし上手に説明できなくて」

「雫さま……」

「だから、その、えーっと」

「ありがとう雫さま」

 嬉しそうに微笑んで、マティルダちゃんはあたしにお礼を言った。
 そしてまた肖像画を見上げる。

「無くしてない。今も……」

 そう呟く表情は、さっきとは少しだけ違っているように見えた。

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