銀の精霊・森の狂王・時々、邪神
「ああ楽しかった!」

 マティルダちゃんが満足そうに笑う。

 食事の時間が終わって、ヴァニスが仕事に戻っていく姿を、ふたり並んで見送った。

「お兄様もきっとご満足だわ」

「そうかしら? せっかく兄弟水入らずの時間を、あたしがお邪魔しちゃったのに」

「そんな事ないわ! だってお兄様笑ってたもの!」

「笑う?」

「即位なさってから、お兄様はマティルダ以外には誰にも笑顔を見せなかったの。一度も」


 笑顔を見せない? 一度も?

 そういえば馬車でヴァニスが笑った時、護衛の兵士達が驚いたように顔を見合わせてたっけ。

「お兄様は国王として、毎日国民の為に大変な努力をしていらっしゃるの」

「そう」

「ご苦労なさっているの。マティルダと会う時間も作れないくらい……」

 そう言って、寂しそうに視線を落とす。

 この一緒の食事の時間も、ずいぶん久し振りだったらしい。

 ヴァニスは、マティルダちゃんと一緒の時間を過ごそうと努めてはいるらしいけど、どうにも時間がとれないみたいで、どうしても寂しい思いをさせてしまっているようだ。

「お兄様は国王陛下ですもの。それが当然だわ」

 そんな強がりを言うマティルダちゃんが、少し気の毒だった。

 ほら、やっぱり神の消滅なんてバカな事に血道を上げてないで、おとなしく普通に国王してれば良かったのよ。

 そしたらマティルダちゃんを寂しがらせずに済んだのに。

 今からでも遅く無いわ。軌道修正って大事よ。

 人間、過ちなんていくらでも起こすものだわ。

 王様だって人間に変わり無い。間違いに気付いた時点で、すぐに後戻りすればいいだけの……こと……。
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