銀の精霊・森の狂王・時々、邪神
 そこまで考えて、あたしの脳裏にあの光景が浮かんだ。

 ヴァニスの姿に熱狂していた民衆の姿が。

 彼らの生活は劇的に変貌して、夢のように便利になった。

 拷問やら処刑やら、ムチャクチャな事をしても支持されているのは、ひとえにそれが理由だと思う。

 その方針を今さら変更できるんだろうか。

 人間は一度覚えた蜜の味は忘れない。絶対に。

 美味しい飴を口元から突然奪い取られたら、大絶叫するだろう。

 反発の大きさは想像もつかない。
 そうなったら、ヴァニスの国王としての立場は?

 ……べ、別にヴァニスの立場なんか知ったこっちゃないけど!

 身から出たサビだし!

 ヴァニスは考えを改めた方が、世界の未来にとって良いに決まってるもの!

 ただ、そうなったらマティルダちゃんがまた傷付くんじゃないかしら。
 それを思うとちょっと胸が痛む。

「ねぇ雫さま、明日はお兄様が城下の視察を行う日なの」

「へぇ、視察を?」

「ぜひ雫さまにもご一緒して欲しいわ」

「え?」

 城下町の視察に? あたしが?
 あたしが一緒に行っても何の役にも立たないけど?

「お兄様のお側についていて欲しいの。お兄様、きっと雫さまをお気に召されたんだわ」

「……え゛?」

「だってお兄様、ずっと笑っていらしたもの。絶対よ」

「あ~~、それは……」

 ないと思う。それこそ絶対に。
 つい数時間前に、鼻先に剣を突きつけられた身としては。

「お願い! どうかお兄様のお心を癒して差し上げて!」

 いや~、癒すっても、ねぇ。
 根本的に、それは不可能かと……。

 苦笑いするあたしに、マティルダちゃんは熱心に頼み込む。
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