銀の精霊・森の狂王・時々、邪神
「お願い! お兄様にはマティルダからお話を通しておくわ!」
「いや、でも……」
「お願い! お願い!」

 懸命に頼み込む姿に、なんとも返事ができなくなる。

 ゴニョゴニョと言葉を濁すあたしを、マティルダちゃんは強引に押し切った。

「じゃあ決まり! ありがとう雫さま!」

「え? え? あの……」

「姫様、お昼寝のお時間でございます。お部屋にお戻り下さいませ」

「分かったわ! それでは雫さま、またお会いしましょうね!」

 満面の笑顔を残し、マティルダちゃんは侍女を連れて軽やかに去っていく。

 あ、あ~……行っちゃった。ちょっと待っ……。

 背中を見送りながら困惑するあたしに、別の侍女が声をかけてきた。

「お部屋をご用意しております。こちらへどうぞ」

 そう言って、侍女はこっちの返事も待たずにサッサと進みだす。

 ちょ、ちょっと待ってよ! ここで置いてきぼりされたら迷子になっちゃうわ。右も左も分からないんだもの。

 そうして慌てて侍女の後についていって案内された部屋は、小さめの客室だった。

 キルティングの寝具と、植物の模様が彫り込まれたイスとテーブル。

 小さな鏡台と、木の扉で閉じられた大きな窓。

「御用がありましたら、この呼び鈴を鳴らしてください」

 侍女は頭を下げて部屋から出て行ってしまった。

 呼び鈴って、天井からぶら下がってるこの紐?

 へぇ、これ鳴らすと鈴がなるのか。むやみに触らないようにしなきゃ。

 あたしは部屋の探索もそこそこに、ベッドに身を投げるように横たわった。

 あぁ、普通のベッドだわ! 板切れでも薄い藁敷でもない!
 普通って幸せなことなのね!
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