銀の精霊・森の狂王・時々、邪神
「甘ったれるんじゃないわよ!」

「し、しかし私にはもうそれだけの力が……」

「じゃあ、このまま一生アグアさんに会えなくてもいいの!?」

「そんなのは嫌です! アグアに会いたい!」

「だったら腹をくくりなさい!」

「でも……力が……」

「あぁぁ――まったくも―――!!」

 この男、ほんっとに、うちの弟そっくり!

 自分じゃ洗濯ひとつしないくせして、権利や希望の主張だけは一人前!

 一発鉄拳食らわせないと、目が覚めないんじゃないかしら!

 殴ってやろうか! この金髪サラサラな後頭部を!

「おい雫、本当にいい加減にしろ!」

「なによ! あんただってコイツをどうにかしたくて、ここまで来たんでしょ!?」

「そ、それはまぁ」

「だったら、してやろうじゃないの! どうにか!」

「……あ?」

「行くわよ! 狂王の城へ!」

 ポカンとして首を傾げるモネグロスと風の精霊に正面切って、あたしは宣言した。

「あたし達三人で、森の人間の国に行くわ! そしてアグアさんを奪還するわよ!」

「……」

 風の精霊は絶句してるし、モネグロスは涙も引っ込んだのか、泣くのを忘れてキョトンとしている。

 しばらくの沈黙の後、ようやく風の精霊が口を開いた。

「お前、本気か?」

「冗談でこんな事を言う愛想も余裕も無いわよ」

「元の世界に戻りたいんじゃなかったのか?」

「戻りたいわよ。ものすごく」

「だったら何で、こっちの世界の問題に首を突っ込むんだよ」
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