恋をしたのは澤村さん
「駄目とか…そんなんじゃなくて。
代わり、なんていないから」
島津木くんも………澤村さんも。
誰一人として代わりなんていない。
「そっか。うん、田中さんの気持ちは分かったよ」
「島津木くん」
「でもね」
ごめんなさい。そう言おうとしたら言葉が被せられた。
島津木くんは私の頬をもう一度拭ってその腕の中に私を閉じ込めた。
そうして低く優しく呟いた。
「諦めるつもりなんてないから。
だから、いつかは俺の方に振り向いてね」
島津木くんが私から離れていく。
彼がいつもつけている柑橘系のフレグランスがフワリと漂う。
「またね。また明日学校でね」
そう言って私にプリントやノートのコピーを渡して島津木くんは門扉を押して出ていった。
島津木くんが出ていった後糸の切れた人形のように私はその場に崩れ落ちた。
澤村さんに優しくされた時とは違う。
胸が高鳴るような締め付けではなく。ギュウッと押し潰されるような苦しみに私はただ呆然とした。
「好きだなんて、嘘でしょ…」
キスをされ、涙を拭ってくれたその手の暖かさ。ソッと壊れ物の様に抱き締めてくれた島津木くんの身体の大きさ。
彼が男なんだと教えてくれると同時に、その行動すべてが私の事を好きなんだと教えてくれる事実。
好きだと否定出来ないものだった。