竜家の優雅で憂鬱な婚約者たち
花沙は片手でボタンを外して、まるでそこにジッパーがあるかのように、下から上へと手を動かして見せたあと、手早くボタンを留める。
スーツのボタンを留める仕草というのは、悪くないものだ。
とにかくジッパーよりは美しい。間違いなく。
「中世ヨーロッパの宮廷服では、フロントボタンの数はゆうに30は超えていた」
「おしゃれだったのね?」
「ああ」
そして彼は生地がつまれたテーブルに片手をついて、もう一方の手で、自分の着ているスーツの前のボタンを指で押さえた。
「洋服の表面のあちこちにつけらた時代が続き、その後、日本の足袋のようにボタンをひっかける細工が考案され、そして最後に現代の、生地自体に穴をあけて、ボタンを留める手法が考え出されたんだ。ちなみにちゃんとしたテーラーで作ったスーツは、ボタンホールも手縫いだよ」
「へぇ……花沙って……ちゃんと勉強してるんだね」
思わず彼の博識ぶりに、感心してしまうエリだったが、花沙にしていればこれはテーラーの常識で、感心してもらうほどのことではない。
彼は呆れたように眉を寄せたけれど、すぐにエリの無知などどうでもよくなったのか、さらに言葉を続けた。