竜家の優雅で憂鬱な婚約者たち

「花沙、今のは?」

「んー、お客様、だろうな。開店には早いけど……」



確かに時計を見てみれば、短針は30分も指していない。開店の10時にはかなり早い。

が、花沙は出ることを決めたようだ。くしゃくしゃと髪をかきまぜながら、ため息をつきつつもドアのほうへと向かった。



「そ、そっか……! お客様!」



別に接客を頼まれたわけでもないのに、ソワソワし始めるエリ。

つまんでいた美しいボタンを元あるところに仕舞い、花沙の背中を追いかけた。


が、このまま自分がお客様の前にいていいのか……いや、いいはずがないと思い直し、立ち止まる。



「ちょっと、私どうしたらいいの!?」

「もし長居するようなお客様だったら、お茶でも淹れてくれたらいい」



さらりと答える花沙。



「わかった……! もし長くなりそうだったら、お茶を淹れるのね!?」



大したことを頼まれたわけでもないのに、ドキドキしてエリの心臓が破裂しそうだった。
けれどたとえどんな仕事でも、これが向き合うと決めた最初の一歩なのだ。


頑張るぞ!


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