竜家の優雅で憂鬱な婚約者たち
決して急かすような真似はしなかったけれど、彼の柔らかい(演技ではあるが)声に後押しされるように
「これを、見ていただきたくて……」
堀田と名乗った男は、紙袋をおそるおそる、花沙の前のローテーブルに置いた。
「――拝見します」
花沙は腰を浮かせて紙袋を持ち上げ、中に手を入れる。
少し離れて見守っていたエリも気になって、思わずソファーに近づき、花沙の後ろから紙袋の中を覗き込んでいた。
「これは……」
花沙はどこかうっとりとした微笑みを浮かべて、感嘆のため息を漏らす。
「濃紺地に白のチョークストライプ。クラシックスーツの中のクラシックといえるようなよいスーツです」
「よいスーツ、とは、どういう意味でしょう?」
「スーツの基本は、ゲルマン、ラテン、アメリカの三つになります。流行に左右されない、準礼装としても身に着けることが出来る伝統的なスーツです。これもそうですね。英国を中心とするゲルマン系。人の体のラインをなぞり、ウエストが絞り込まれている。シャープな肩のラインと広めの衿。美しいドレープが特徴です」
「ねえ、ドレープって?」
ドレープがしわだってことはわかるけど、美しいドレープのスーツと言われてもピンとこなかった。