竜家の優雅で憂鬱な婚約者たち
その場で地団太をふみたくなったエリだったが、結局母は、男の制止を振り切って、マンションのエントランスへと飛び込んでいく。
一人残された男は、雨に打たれその場にたたずんでいた。
グレーのスーツは雨に打たれその色を重く変えている。
あーあ……あんなに高そうなスーツなのに、ダメになっちゃうわね。
でも、ちっとも同情するつもりにはならない。
お洒落な男なんて大嫌いだ。着飾ることばかり考えて、ろくなもんじゃない。
そんな気持ちで手すりから離れかけたエリだったが――
ふと、階下の男が顔を上げた。
やばっ!
慌てて後ずさったが、まぶたの裏にはしっかりと男の姿が焼き付いてしまっていた。
男は、エリが想像していたよりずっと若かった。