竜家の優雅で憂鬱な婚約者たち

「男として責任も取らないまま、私とお母さんを捨てた人でしょ!?」



エリの記憶に、毎日家にいる「世間一般で言われる普通の父親」の記憶はない。

幼稚園の頃『どうして自分の父親は、いつも家にいないのか』と母を問い詰めたことがあるのだが、母は「お父さんはとても忙しいひとだから」と、それだけしか教えてくれなかった。


その頃エリたち親子は、今より田舎の小さな平屋の一戸建てに住んでおり、母も教師ではなく、自宅でピアノを教えていた。

そこに、父はふらりとやってきて数日過ごし、また数か月顔を見せない。そんな生活を送っていた。



エリが覚えているのは、些細なことばかりだ。


父がやたら背の高い人だったということ――

そしてお話が上手だったということ。



その頃のエリは平均以下の小さな女の子だったので、小学校中学年くらいまでは、膝に乗ったり、肩車をしてもらったりしていた。

そして彼の膝の上で、いろんな話をせがんでは、聞かせてもらった。



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