竜家の優雅で憂鬱な婚約者たち
バックヤードから階段を駆け上り紳士服フロアへ。
紳士用品は、エスカレーターサイド、フロアの中央で展開している。
「えっと……誰も、無理っぽい……」
売り場の係員に声を掛けようとしたのだが、ちょうど全員接客中で、声を掛けることはできなかった。
今から戻っても二度手間になりそうだ。
仕方なく、エリは売り場の商品を手持無沙汰に眺めていたのだが――。
「――すみません」
背後から低い声が響く。
最初は、自分が声を掛けられたことにすぐに気づかなかった。
けれど背後の気配が動かない。
もしかして私!?
っていうか、お客様だったり!?
エリはハッとして振り返った。
「スーツを探している。見てもらいたい」
「ッ!」
思わず息をのみ、硬直するエリ。
そこに立っていたのは――
信じられないことに、あの雨の夜。母と言いあっていた男だったのだ。