竜家の優雅で憂鬱な婚約者たち
どうやら彼は自分を紳士服フロアの担当だと思っているらしい。
確かにエリはさざれ百貨店の名札はつけているが、見当違いもいいところだ。
「あっ……あの、私ではなく、担当を呼びますので……!」
慌てて周囲を見回したが――
こういう時に限って、やはり全員接客中だ。
声を掛ける隙もない。
ど、どうしよう!?
彼がお母さんと言い合っていた『あの男』かどうかはとりあえず置いといて、セレクトショップアルバイトの私が、紳士服の見立てなんかできるはずがないのに!
「何か問題でも? 君もさざれ百貨店の従業員だろう」
彼はそのまま、まっすぐに紳士服コーナーへと向かって行ってしまった。
ちょ、ちょっと待って!!
エリは慌てて彼の背中を追いかける。
「お客様、申し訳ありません、私は――」
「質問だ」