竜家の優雅で憂鬱な婚約者たち

「放棄します……遺産、いりません」



この美しいテーラーが私のものだというのなら、こうするしかない。


ボソボソとつぶやいて、エリは立ち上がる。

体の上にかかっていた上衣が床に落ちたが、それに気づかないまま、エリは虚ろな目で三兄弟を見回した。



「きっと何かの間違いです……お父さんが私にこのお店を残しただなんて」



もう、帰ろう。忘れよう。

お父さんが死んだ。もうそれがわかっただけでいいじゃないか……。

もうこれで過去に悩まされることはないのだから。



けれど、数歩歩いたところで「待て」と手首をつかまれる。

顔を上げると、手首をつかんでいるのは雪光だ。



「間違いじゃない。この店はお前のものだ。お前にはこの店を受け取る義務がある」

「義務って……」



そんな勝手なことがあるものか!


そう、叫びたいのにエリは言葉を失っていた。



「だから、話をしないわけにはいかない」



自分を見つめる雪光の強い眼差しに、飲まれていた……。



< 71 / 120 >

この作品をシェア

pagetop