竜家の優雅で憂鬱な婚約者たち
「放棄します……遺産、いりません」
この美しいテーラーが私のものだというのなら、こうするしかない。
ボソボソとつぶやいて、エリは立ち上がる。
体の上にかかっていた上衣が床に落ちたが、それに気づかないまま、エリは虚ろな目で三兄弟を見回した。
「きっと何かの間違いです……お父さんが私にこのお店を残しただなんて」
もう、帰ろう。忘れよう。
お父さんが死んだ。もうそれがわかっただけでいいじゃないか……。
もうこれで過去に悩まされることはないのだから。
けれど、数歩歩いたところで「待て」と手首をつかまれる。
顔を上げると、手首をつかんでいるのは雪光だ。
「間違いじゃない。この店はお前のものだ。お前にはこの店を受け取る義務がある」
「義務って……」
そんな勝手なことがあるものか!
そう、叫びたいのにエリは言葉を失っていた。
「だから、話をしないわけにはいかない」
自分を見つめる雪光の強い眼差しに、飲まれていた……。