竜家の優雅で憂鬱な婚約者たち

「ちなみにこのサヴィル・ロウが、転じて『背広』になった、というのはよく雑学のネタになりますが、実際、明治維新のころのスーツ用語はフランス語を用いていたことを考えると、これは俗説と言えるでしょう」

「――おい、月翔。なんだか話、ずれてるぜ」



背もたれにもたれるように立っていた花沙が、兄の薀蓄に横槍を入れる。



「ええ、まぁ、とにかく。そのくらい歴史が古い街に店を持っている、ということです」

「じゃあその本店はどうなったの?」

「指名を受けた別の人間があとを継ぎました。納得の人選です。が、もう一つの……このミスルトウは、弟子たちの誰も、貰えなかった。娘エリィのものだと、彼が決めたからです」



そして三兄弟は、お互いの顔を見まわした。



「お前が手に入れたものは、いらないと捨てられるものではない。放棄できるものでもない」

「なぜなら彼の残したものは、この店と、それに付随する人脈だからです」

「要するに莫大な財産ってこと。あんた、わかってんの?」




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