ラララ吉祥寺

——ピピピピッ…

「うわっ!」

差し出された体温計には、38.4℃と表示されていた。

明らかに高熱だ。

「拓馬くん、喉は痛い?」

「べつに」

「頭は?」

「ちょっと痛いかな」

「ほかに痛いとこは?」

「なんとなくあちこち?」

芽衣さんと木島さんと、三人で顔を見合わせて頷いた。

「インフルかも!」

まだ流行の季節は幾分早いけど、ありえない話ではない。

兎に角、俊一君から遠ざけないと!

「水飲んで、寝なさい! 拓馬君、保険証って持ってたっけ?」

「はい、一応」

「今何時?」

「六時です」

「一晩様子見て、下がらないようだったら明日病院ね!」

「えぇ〜」

「四の五の言わずに、兎に角寝る!」

「拓馬、大人しく言うこと聞け」

「は〜い」

そう言って立ち上がった彼の身体が一瞬ぐらりと揺れた。

「あれっ?」

今まで座っていた本人には、高い熱があるという実感が無かったらしい。

「大丈夫か?」

「えっと、まぁ、二階上がるくらいは……」

覚束ない足取りで拓馬君が部屋を出ていくのを、みんなで見送った。
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