ラララ吉祥寺
「母を困らせちゃ駄目だろ、ツムグ」
「だって……」
「だってじゃない。何事にも最適な手順というものがある。それを踏めないのは愚か者だぞ」
「おろかもの?」
「駄目な男ということだ」
「木島さん?」
「父と母はいつも紡のことを一番に考えてる。それがわからないのは駄目な男だ」
「うわぁ〜ん」
「ツムグ? ……、木島さんそこまで言わなくても」
「文子、無邪気と我が儘は別ものだよ。これから兄弟も生まれるというのに、心構えがなってない」
「確かにそうですけど……、紡ツムグはまだ四つですよ」
「三つ子の魂百までと言うじゃないですか。物事の分別は、小さい頃からキチンと教えていかないと」
木島さんはいたって真面目に、紡の泣き顔を覗きこんだ。
「ツムグ? シートベルトは父か母が外すもだ。
いくら紡が自分で出来ても外してはいけないものなんだ。何故なら、シートベルトは父や母に代わって紡を守ってくれるものだからだ。
わかるな?」
「う、ん」
「たとえベルトが外れても、椅子から出てはいけない。守れるな」
「は、い」
「よし。じゃ、自転車の練習に行くか」
「行く!」
木島さんは紡を軽々と抱き上げると、自分の肩に乗せた。
片手で紡を支え、もう片方の手で紡の自転車を引き歩き始める。
「文子はゆっくりでいいからね。僕たちはあっちの広場で練習してるから」
「はい」
私しは二人の背中を温かい気持ちで見送った。