ラララ吉祥寺

「紡の頑張り、見てあげて。

ツムグゥ〜、いいぞぉ〜」

大きく手を振った木島さんの合図で、少し離れた場所からヘルメットを被った紡が、自転車に跨って近づいてくる。

「あれっ? 前にちゃんと進んでる」

「でしょ。ツムグは運動神経がいいね。誰に似たのかな。やっぱり僕?」

「どうせわたしは鈍臭いですよ」

「素直で優しいところは文子似でしょ」

そう言って木島さんは私の肩をそっと抱き寄せた。

「みた、みた? ほじょりんなしだよ、やった!」

紡が頬を上気させ、私たちの前でペダルから足を降ろして止まった。

「凄いよ、ツムグ、やったね!」

「とうしゃんのいうとおりにしたら、のれた!」

「父さんも凄いね」

「すごいね」

「木島さん、どうやって教えたんですか?」

「大きな声では言えませんが……」

『健太郎くんのお父さんに練習のコツを教わったんです』と、私の耳元で囁く木島さん。

健太郎くんのお父さんは子供向け体操教室でトレーナーをしているイケメンだ。

ま、この場合イケメンというのは置いといて。

「ほら、ツムグ、コツがつかめたとこで止めたら駄目だ。父と一緒にあと一周」

「は〜い」

ペダルに足をかけた紡は、小さな身体を緊張させて最初のひと漕ぎに全力を注ぐ。

小さく左右に身体を揺らしながら、ヨロヨロと紡の自転車が前に動き出した。

「じゃ、あと一周行ってきます。戻ったらお昼にしましょうか」

ちゃんと日陰で待ってて下さいね、と言い置いて木島さんは紡の後を追って走っていってしまった。
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