ラララ吉祥寺
ところが、玄関の引戸を開けてわたしが家の中に入っても、彼はその戸を食い入るように眺めてなかなかそこを動かなかった。
「木島さん?」
あんまりボロ屋なんで驚いて動けない、なんてことあるのだろうか。
ところが彼の一声は、わたしの予期もせぬものだったのだ。
「いやぁ~、この引戸、いいですねぇ~」
彼は引戸を何度も開け閉めしながら、わたしを見た。
「なんとも味がある。
普通、こういう木製の引戸は無用心だからって、アルミサッシに付け替えることが多いじゃないですか。
文子さんも、そう思ったことあったでしょう?」
「ええ、まあ。
でも、母がこの佇まいを気に入っていて。
家は窓も木建てです。
さすがに浴室は寒くて、数年前にユニットに替えましたが、他は建てた頃のままだと思いますよ」
「ほんとですか?」
彼は勢い目を輝かせて家の中へと入ってきた。