ラララ吉祥寺

わたしはその晩、夢を見た。

ほんとうに久しぶりに、彼の夢を。


「俺、文子の画って好き。線が優しくって、文子みたいだよね」


そう言って、笑った彼の、顔なんてもうとっくに思い出せなくなっているのだけれど。

確かにそれは彼の声で。

そうか、なんとなく木島さんの声に似てるんだ、なんて。

夢の中のわたしは、その情景を何故かとても客観的に眺めていた。


美術室にたちこめた油絵の具の匂い。

指に付いた木炭の黒い汚れ。

わたしを包み込んだ、彼の細く華奢な白い手。

太陽光を遮る為に引かれたカーテンが、風で揺らめいた瞬間、眩しくて目を閉じた。


「僕と彼女はただの友達です」


さっきの優しい声が豹変した。

鼓動が急に速くなる。


そうだ、わたしは冷たく突き放されたのだ。

あんなに優しかった彼に。

信じていた彼に。

もう遠い過去の記憶の筈なのに、それでもまだこんなに胸が苦しいものなんだなぁ、なんて。

大人になったわたしは、そんな拒絶の言葉くらいじゃ、もう、うなされたりはしないけれど。
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