*政略結婚*
当日、由香は父と一緒に指定された場所へとやってきた。
「由香、やはり…この見合い受けてくれないか?」
「父さん」
父の言葉に、由香は深いため息をつくとくるりと後ろを振り返る。
「父さん、昨日も言ったはずよ?今回の事は彼にも話して、500万は準備出来ると言っていたの。残り500万は、何とかして稼いで行けば全額返済できる。
だから、このお話は受けなくても良くなったのよ?」
「しかし…」
父は、未だ納得できないのか、歯切れ悪く口を開く。
だが由香は、そんな父などお構いなしにスタスタと前に進んで行く。
仕方なく、父もそれについていく。
古風な景色が広がる中、延々と続く長い廊下を突き進む。
そして、つきあたりに差し掛かると、先に待機していた中居がすっと扉をあけ放つ。
入ってすぐ、右側に男女二人が待っていた。
由香は、父が入るのを待ってから、中に入る。
そして、父の少し後ろに腰を降ろす。
「…お待たせ致しました。
中塚 裕二と申します。
こちらは、娘の由香。
此度は、お忙しい中このような機会を設けて頂き、誠恐悦至極にございます。」
父は、ゆっくり頭を軽く下げながら言い放つ。
由香も、それに習って頭を下げた。
「裕二さん、堅苦しい挨拶は抜きに。
早速、始めましょう。」
右端にいた中年の女性が、優しい声色で促す。
「由香さん、と申しましたね?」
「…はい」
「はじめまして。
私は、 飯部 喜美江と申します。
こちらにいます。 晴眞の母です。」
喜美江は、にっこり微笑み、隣に目をやりながら言う。
由香も、釣られて隣の男性を見る。
晴眞と言われた男性。
スッキリと整った輪郭。
長い眉に、筋の通った鼻。
所謂『美男子』と言われている分類に入るのだろう。
由香は、しっかり相手に体を向ける。
「はじめまして。
中塚 由香(なかつか ゆか)と
申します。」
「… 飯部 晴眞(いいべ はるま)と言います」






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