涙のあとの笑顔
「フローラを悲しませるなよ」
「わかっている」
「俺はここにいるから、傷つけるようなことがあれば何が何でもあんたから遠ざける」
「そんなことはさせない」

 もうあの子を傷つけない。絶対に。

「俺は諦めていないから」

 チャンスがあれば、いつでも奪ってやる。
 そう告げた後、薔薇園にフローラと自分だけになった。

「教えてくれないの?」
「うん、内緒」

 不満げにケヴィンを見上げると、鼻にキスをしてきた。
 何もキスが欲しくてこんなことをした訳じゃないからね。

「一周する?」
「うん!」

 ケヴィンが私の手を取り、噴水を通り過ぎて行った。華麗に咲く薔薇を楽しみながら、隣にケヴィンがいてくれていることに大きな喜びを感じた。

「あのね、ずっと考えていたことがあるの」
「何?」

 就職のことを切り出した。いつまでも遊んでばかりいては駄目だと、どこで働こうか、自分にとってどんな仕事が良いのかを悩み続けていた。そのことをステラの店でイーディと話していると、ステラの親から店員として働くことを勧めてくれた。ちょうど働いてくれる人を求めていたようで、もしも、他のところがなければと話を持ちかけてくれた。

「城で働く気はないの?イーディだっているから心強いよ?」
「考えたけど、今、ステラの店の人達は病院にいるから、力になりたいの」
「いつ返事をするの?」
「今日、ステラの店へ行く。そのときに返事をしようと思うの」

 家があれば、そこから行くが、もうないので、城から行くことしかできない。カレンに相談すると、賛成してくれた。それに城から出て行かないでとも言われた。

「もう決めたという顔だね」

 ケヴィンはどこか納得がいかないようだった。

「専属メイドになってくれたら良かったのに・・・・・・」

 私の想像を裏切ることはなかった。想像通りだったので苦笑いした。
 話がついたら、城へまっすぐ戻ることを約束して、繋いだ手を解いた。

「じゃ、行ってきます」
「いってらっしゃい」

 ステラの店へ行くと、ステラと親が笑顔で迎えてくれた。

「決まった?」
「はい、ここで働かせてください」

 返事をしたとき、ステラは飛び跳ねるように喜んだ。

「やった!お姉ちゃんと働けるなんて嬉しい!ね?お母さん!」
「そうね、これからよろしくね」
「こちらこそ、よろしくお願いします!」
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