涙のあとの笑顔
「一回も当たらなかったわ。フローラ、頑張って!」
「わ、私?」

 弓矢って使ったことがないんだけどな。
 三回目でちょうど真ん中に当てることができた。

「あ、当たった」

 一人の生徒がグッズを持ってきてくれた。

「いろいろと入っているね」
「うん、どれも可愛い」

 袋の中にはマグカップ、スプーンとフォークが入っている。
 
「イーディ、フローラ、俺、そろそろ行くね」
「まだ少しくらいなら余裕あるんじゃないの?」
「そうなんだけど、早めに行って損はしないでしょ?じゃあ」

 私の頬にキスをしてから、出口へ向かって行った。

「油断も隙もあったものじゃないわ」
「本当に毎度避けられないなんて・・・・・・」
「今は忘れて、女の子同士で楽しみましょう」
「うん。あの、ステラのとこへ行ってもいい?前から誘われていたの」
「もちろん。さっきから私の行きたいところばかり連れて行ったから、今度はフローラの番よ」

 一階の奥の教室へ向かっている。そこにステラはいると教えてくれていたから。

「何をしているのかしら?」
「詳しいことはわからないの。飲食としか教えられていなくて、あとは来てのお楽しみだって」
「フローラお姉ちゃん!」
「あら」
「ステラ!」
「来てくれたんだね!あれ?ケヴィンさんは?」
「仕事でさっき行ってしまったの」
「そっか、来てほしかったな」
「ステラのとこは何をしているの?」
「フルーツジュースを販売しているの!」
「だから甘い匂いがしているのね」
 教室に入ると、数種類のフルーツジュースがたくさん置いてあった。

「いただくね」
「はい。ありがとうございます!」

 ステラは満面の笑みを向けた。

「お姉ちゃん、午後、一緒に回ろう」
「いいよ。ね?イーディ」
「もちろん。どこで待ち合わせをする?」
「食堂で待っていてください。あと一時間くらいで行きますから」
「わかった、またね」

 教室を出ると、さっきより人が多く集まっていた。

「どこも人がすごく多いね」
「本当。何人か知り合いもすれ違っているわ」
「そうなの?」
「何人かメイド達もいるわ。すぐに帰るみたいだけどね」
「私の知らないメイドさんね。きっと。知っていたら挨拶をするもの」
「向こうは知っているわ。たまに話すし、見かけたことはあるって」

 メイドさん達はたくさんいるから。最初は誰が誰だか混乱するばかりだった。

「すぐに有名になったわね。城へ来てから。ケヴィンの影響が大きいから余計にね」

 ケヴィンの名前は出てきて、少しだけ動揺した。彼がステラと会わなかったから内心ほっとしている。
 また何かしてきたら大変だから。何よりあの子が傷つくところを見たくない。

「ケヴィンは昔からあんな感じだったの?」
「いいえ、あそこまで何かに惹かれるタイプではなかったわ。フローラと出会って、変わったから最初は驚くことしかできなかった」

 昔の彼について知らない。あんなことをした彼は私にだけ影響されてしたとは思えない。私の知らない彼がそうさせた可能性だって考えられる。
 私は不思議とそんな考えを抱くようになっていた。
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