涙のあとの笑顔
 アンディさんは右手で一枚目を捲り、それ以降は左の親指だけで捲っている。この癖は前にも見たような気がする。ここではない。もっと違う場所で。

「やっぱり昔、会ったことがありますよね?私と」
「何だ?いきなり」
「考えていたんです。動きとか癖とか、そっくりなんです」
「そっくりね・・・・・・」

 記憶にあるのに、どこかがおかしい。あまりにも小さかったからかもしれない。
 それでもこの人がどうしても気になってしまう。
 アランさんは本を机の上に置き、私を連れて、人気のないところへ行った。何か呪文を唱えたあと、アンディさんの姿がはっきりと映し出された。髪の色が変化している。眼鏡を外した状態だ。

「俺が誰だかわかるか?」
「レイバン・・・・・・お兄ちゃん?」
「そうだ」

 レイバン・ライリー。それが彼の本当の名前。
 昔、買ったお菓子を橋の上から落としてしまって拾おうとしたときに川で溺れそうになったところを助けてくれた。

「危ないだろ」
「だってお菓子が・・・・・・」
「菓子?あれか」

 彼はお菓子を拾い、私に渡してくれた。

「ありがとう、お兄ちゃん!」
「レイバンだ。言えるか?」
「レイバンお兄ちゃん!」

 嬉しさのあまりに抱きついた。レイバンお兄ちゃんは苦笑いをしつつ、抱きしめてくれた。

「よしよし、あまり強くしたら、お菓子が潰れるぞ?」

 ハッとしてお菓子を見た。良かった、大丈夫。
 それを見たレイバンお兄ちゃんは目を見開いたあと、面白そうに笑っていた。
 それから私達は遊ぶ機会が多くなった。いつでも優しく迎え入れてくれた。
 けれどそれは長く続かなかった。遠くにある学校へ行ってしまったから。泣いていた私に必ず会おうと約束を交わした。
 あのときのように私達は抱きしめあっていた。

「本当に大きくなったな、フローラ」
「お、お兄ちゃん、何でもっと早く言ってくれなかったの?」
「タイミングを計っていた。お前は少しずつ気づいていったから、そろそろいいかと思って、この姿を見せた」
「偽名を名乗っているのはどうして?」

 何のために偽名を名乗っているのか。

「ここ数年、事件が立て続けに起こっているだろう?俺の家族も前に巻き込まれた」
「そんな!」
「そのとき俺は犯人に顔を見られた。それで命を狙われたが、何とか逃げ切れた」
「家族の方は?」
「怪我を負わされたが、命に別状はない。すっかり元気になっている」
「良かった」
「俺は犯人を捕まえるまでこの姿は隠す。だからお前も俺と二人でいるとき以外は偽名で呼べ」
「わかった」
「いい子だ」
「あの、話が少し変わるけど、放火事件の情報ってある?」
「お前の家を燃やされた件か?犯人が女か男かわかっていない。ただ、あちこちで放火事件は続いているから、同一犯の可能性だって考えられる」
「同一犯」
「これ以上悲しむ人を増やすわけにはいかないのに・・・・・・」

 レイバンお兄ちゃんは悔しそうに唇を噛みしめていた。
 どうして人はこうも簡単に人を傷つけるの?

「フローラ様、どこですか?」

 イーディが小さい声を出しながら、歩き回っている。

「ここだ」

 ちょっと、その姿を見られたら大変・・・・・・。もとに戻っている。私だけあたふたとしていた。

「まだ話が・・・・・・」
「またゆっくり話せる時間をお互い作ろう」

 肩に手を置き、そう耳元で囁いた。

「アンディ様!いつからフローラ様と?」
「一人だったから話し相手になっていただけだ。じゃあな」

 レイバンお兄ちゃんはあのときのように優しげな表情だった。
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