甘え下手
「百瀬さん。チケットここに置いておきますね」


そんな私の思惑なんて当然のことながら業務にはなんの関係もなくて、仕事をしているうちに明日の新幹線のチケットが届いた。


「あっ、ありがとうございます」


持ってきたのは総務の女の子で櫻井室長じゃないのに、勝手に緊張してしまう。

いつもなら往復チケット2セットのうちの1セットをを隣の参田さんに渡して、出張準備を進めるわけだけど……。


チケットを手にむーんと悩む。

悩んだところで仕事に私情なんて挟めるわけがないのだから、私には選択肢なんてひとつしかないのだけど。


私の座っている席からはパーテーションが邪魔で、櫻井室長が席にいるかどうか確認はできない。

悩んでるよりも早く済ませてしまえと、気合を入れて立ち上がるとチケットを握りしめて櫻井室長の席へと向かった。


会社のフロアをこんな風に胸をドキドキさせて歩くだなんて初めてかもしれない。

トキメキのドキドキじゃなくて緊張のドキドキの方という意味で。


普通に、普通に。

出張よろしくお願いしますって言えばいいんだ。


そうしたら明日はきっと普通に接することができる。
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