甘え下手
参田さんのおかげでその後席に戻ったついでに、櫻井室長にチケットを渡すときも普通の態度でいられたと思う。

櫻井室長も今まで通りの笑顔で「久しぶりで足引っ張るかもしれないけどよろしく」なんて言ってくれた。


胸がキュンと切なくなる。

失恋決定じゃないって誰かに言ってもらっても、自分で言い聞かせても、この痛みを伴った胸の高鳴りはまるで失恋した後みたいだ。


その痛みを振り切るようにいつも以上に頑張って展示会用の資料を準備した。


途中で櫻井室長が席まで様子を見に来てくれた。

「何か手伝うことあるか? 今回一人で準備じゃキツイだろ?」って。


その優しい言葉に隣の参田さんをチラッと白い目で見てやったけど知らんぷりされた。

何故ならいつも準備は一人でやっているから、今回に限って大変なんてことはないのだ。


「大丈夫です」

「そうか。しばらく見ないうちに百瀬も頼もしくなったな」


櫻井室長はわざとチーフに聞こえるようにそう言ってくれた。

そういうちょっとした優しさが、私は大好きだった。
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