甘え下手
「泊まったけどぉ……。何もしてないもん……」


「ホントだよ?」と上目使いで見てくる沙綾に、心底呆れた。

そんなん訊いてんじゃねーよ。


「アイツの気持ち知ってて、そういうことするのがどうかと思うけど」

「し、仕方ないじゃん! あの時は私だってイッパイイッパイだったんだもん! 人のことまで頭、回んないよっ」


責められてるのを感じたのか、沙綾は今度は逆ギレ気味に訴えてきた。

おそらくその言葉に嘘はないんだろう。


比奈子ちゃんが言う、「悪い子じゃないんですよ」の言葉も。

つまりは恋愛に没頭すると回りが見えなくなるタイプなんだと。


「タチ悪いな、お前」

「……何もしてないから黙ってれば、なかったことになると思ったんだもん……」


今度は叱られた子どものようにシュンとうなだれる。

それを見て仁が「まあまあ、翔馬も厳しく言いすぎだろー」と沙綾を庇い始めた。


そうして沙綾が男の胸で泣いてる影で、あの子はどれだけ一人で涙の夜を過ごしてきたんだろう。
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