甘え下手
「ちょっと俺といれー」


調子に乗ってバカバカ飲んでる仁が、フラフラしながら立ち上がった。

明日も普通に仕事だってのに、よくあんだけ飲むよなと半ば呆れた面持ちで、その様子を見つめる。


「いってらっしゃーい」と手を振る沙綾もそこそこ赤い顔してヘラヘラ笑っている。


「私、今のうちに阿比留さんの隣に座っちゃお―」


それまで仁の隣に座っていた沙綾がさっと立ち上がって、隣にくる。

こういうとこ、抜け目ないよなホント。


姉妹でこうも違うもんだと感心してしまう。

そこは恋愛経験値の差か。


本来ならばそういう女は嫌いじゃない。

妙な駆け引きを仕掛けられるより、よっぽど楽だし、自分に好意を寄せられば可愛いと思える。


「沙綾は俺に気があんの?」

「えー、だって阿比留さんかっこいいもん」


沙綾のきれいにカールした髪の毛をひと房すくって耳元に囁くと、アルコールで潤んだ瞳でまっすぐに俺を見てきた。

それは自分への自信であり、沙綾自身が放つ艶のあるオーラ。
< 172 / 443 >

この作品をシェア

pagetop