甘え下手
じっと改札を見ていたから、百瀬比奈子が出てきた時に俺はすぐに気づいた。

彼女は一人だった。


そして髪で顔を覆い隠すように、下を向いて改札を抜ける。

そのまま俺に気づくこともなく、目の前を通り過ぎようとした。


その姿にもやっぱり違和感を覚える。

胸がざわつくのを感じながら、通り過ぎた彼女を追って後ろから腕をつかんだ。


「比奈子ちゃん」

「きゃっ」


声をかけられると思っていなかった彼女は小さく叫んで、身体を強張らせた。

反射的に顔を上げて俺を確認する。


「あ、びるさん……?」


彼女の顔を見た瞬間、予感が確信に変わった。


「おつかれ」

「ど、どうしたんですか……?」

「それ、こっちのセリフだから」
< 183 / 443 >

この作品をシェア

pagetop