甘え下手
薄く笑って彼女の黒ぶちの眼鏡のフレームにそっと触れてみせた。


「え、えとコンタクトの調子が悪くて」

「それだけ目が腫れてりゃ、コンタクトも入んないだろうな」

「……」


笑おうかどうしようか困った顔。

この場を誤魔化す方法を必死で考えてるんだろ?


もうそんなの通用しないから。


離していた彼女の手首をもう一度つかむ。


「行くよ」

「え、どこに?」


戸惑う彼女の手から旅行カバンを奪って、歩き出した。


止めてあった車に彼女を乗せて、有無を言わせず走り出す。

流されるように助手席に乗った百瀬比奈子は、出発してからもキョロキョロと視線を漂わせて、落ち着かない様子だった。


「あ、あのコレ阿比留さんの車ですか?」

「ああ、あんま乗ってないけど」

「……どこに行くんですか?」


百瀬比奈子が遠慮がちに、もう一度同じ質問を俺に投げかけてきた。
< 184 / 443 >

この作品をシェア

pagetop