甘え下手
頬に手を当てられて、百瀬比奈子が少し身じろぎする。

だけどそれは最初の頃の飛びのくような拒絶じゃない。


それは彼女の中で、俺らの距離が縮まってることを表していた。


「俺んち来る?」


だから俺はもう一度同じ質問をした。

百瀬比奈子の表情が少し強張る。


「ど、うしてですか……?」


すでにうっすらと赤くなってるクセに白々しくそんなことを聞いてくる百瀬比奈子が可愛い。


「約束、したよな」

「……えっと」

「失恋したら俺に慰められるって」


車に乗った時点でもう俺の手の内に入ったも同然なんだけど。

今さらアタフタと逃げ道を探す百瀬比奈子が可笑しかった。


「適当でいいならホテル入るけど」

「ホテル……!?」


百瀬比奈子がギョッとしたように目を見開く。
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