甘え下手
「じゃ、俺んちな」

「え? ええっ……」


彼女の涙が完全に引っ込んだのを確認すると、エンジンをスタートさせた。

キョロキョロしたって降りられないから。


「あ、あの……、本当にどうして……?」

「何が? 約束忘れたとか?」

「そ、そうじゃなくて……! どうして私が失恋したって分かったんですか?」


その質問にはすぐに答えられなかった。

単なる予感に一日中支配されていた格好悪い自分のことを思うと。


でも結果的にはその予感は確かなものだったし、こうして行動を起こさなければ、後でもっと苦い後悔を味わう羽目になっただろう。


「泣いてる気がしたから」

「え……?」

「電話切った時、アンタが泣いてる気がしたから」

「……」

「腑に落ちない?」

「……というか」


「どうして電話くれたんですか?」という問いに俺はやはりすぐには返答が思い浮かばなかった。
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