甘え下手
取り残された私はリビングのソファに腰を下ろして、背もたれに深く身をうずめた。

そのまままぶたを閉じると深く息を吐く。


「……頭、痛いなぁ……」


独り言をポツリとつぶやくと、そのタイミングで冷たい感触が頬に当たった。

驚いて身を起して目を開けると、仏頂面のお兄ちゃんが立っていた。


ミネラルウォーターのペットボトルを私に差し出している。

頬の冷たい感触の主はこれだったらしい。


「ホラ、酔っ払い。水飲め」

「コップに入れてきてよ……」


いつもペットボトルから直飲みして残すと、怒るくせに。


「全部飲みきれ。さっさと風呂入れ」

「……二つのこと、同時にできませーん……」


お兄ちゃんがさっきの沙綾とのやり取りを聞いて、私をなぐさめに来てくれたんだと分かった。

だから空元気なんて出してる気分じゃないけど、なんとなくそんな演技をしてみる。


兄妹はときに容赦なく、ときに誰よりもさりげない優しさをくれる。
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