撮りとめた愛の色
彼は作品を丁寧にしまうと掛けられていた時計を一瞥し、独白するようにぽつりと声を落とした。
「さて、机を片付けてしまうか」
「あ、私も手伝います」
「嗚呼、有難う。いつも悪いね」
気にしないでと笑いながら墨の微香を纏うその部屋から出て、つい今彼と来た道を戻っていく。
踏み締めた足下からは所々ぎしりと軋む音が鳴る。けれど彼の方からはそれがあまり聞こえてくることはなくて、私は思わず顔をしかめていた。
足をすったような、特徴のある歩き方は相変わらず。ならばつまりは、
「……私が重いのか」
太っただなんて認めたくはないけど、女としてそこは認めることはかなり抵抗があるけど。いや、そんなこと考えたくはないけど。
「…………。」
骨張っているけれど男の人にしては無駄な贅肉なんてあるはずもなさそうな華奢なその背を見て、項垂れずにはいられない。
窓から差し込む陽はいつの間にか色付いて、決して暗くはないけれど仄かに暗いその廊下も静かにそれに染まっていた。