撮りとめた愛の色
きゅ。と、蛇口を捻ると泡のついた手をすすいでスポンジをカゴへと放り込んだ。
そのまま横に掛けてあったタオルで手の水気を十分に取り除く。するりと結んでいた髪をほどきながら台所から出て廊下を左に曲がった。
彼がいるはずなのだけど、何の音も聞こえてこない。
「せんせ?洗い物終わったけど…」
やけに静かだと首を傾げつつ部屋を覗き込んだ私は、言いかけて止めた。
並んでいた長机は畳まれて、来た時と同じように端へ寄せられぽっかりと広いスペースが空いている。
その部屋の中、彼は壁際で片膝を立てるような体勢でじっと動かないまま本を読んでいた。
「……せーんせ、」
傍に寄りながら声をかけ、反応が返ってこないのを見てやはりこれは何を言っても無駄かと早々に結論を出した私は隅に置いていた荷物を手にする。
彼は一度集中してしまうと全くと言っても良いくらい他のことが見えなくなる。ああなってしまえば、いくら呼んでも気付かないのだ。
「………帰るだけだし、…別にいいかな」
考え込むように顎に手をあて、自己解決した私は荷物を肩に掛けると一緒に持ってきていた一眼レフをその中にしまい、外へ向かった。