撮りとめた愛の色
「…質《たち》が悪い」
昨日だってそう。意図せず甘い言葉を吐いて胸奥《きょうおう》までかき乱して。なのにそれを本人は気付かずに想いすらも一方通行なんてこの人は狡い。
拗ねたように隣を見上げればその視線に気付いた彼はきょとんと不思議そうな顔をした後、ふわりと柔らかな笑みを浮かべる。
「大丈夫さ、ちゃんと取材は断るから」
伸びた腕がぽんぽんとリズミカルに頭へと落ち、心地良い手つきに尖っていた唇がいつの間にか元に戻っていた。
そうじゃないのに、とは言わないでおこうかと思うのは柔らかく微笑む彼の表情に音に乗せる言葉を失ったから。
近い距離に戸惑いつつも悪くないと思えるのは優しいぬくもりをいつもよりも近くで感じてしまったからだ。
今より少し彼と近くなるだけでも緊張していた私は、縮む距離にそんなにあっさりと昨日の体験だけで慣れる訳もない。
腕だけだったから、そこまで意識しなかったのかは分からないけれど───でも。どこかでぬくもりに触れて安堵を覚えた私がいた。
「───……」
もう少し、そうしていて欲しいと願ってしまうくらいに。
「───なぁ、差し入れ持ってきたけど」
どん、と重たい音を立てながら空気を割るように声が降り注げば私と彼の間の空間に瓶が置かれた。
声を辿るように首を捻って後ろを見上げれば、そこには茶髪の青年が今置いたばかりの酒瓶と私達を見下ろしていた。