撮りとめた愛の色
「汰人《たいと》」
立ち尽くすその青年──汰人は、私の声につい、と視線を動かしたかと思えば私を見てどこか不機嫌そうに目を細めた。
ふと、頭上の重みがいつの間にか消えていて思わずそれを探すように隣りを盗み見る。
「…桔梗達だけか。珍しいな」
そこで離れてしまった彼の腕を名残惜しく感じている私がいることに気付いて、見つめてくる汰人からそれを誤魔化すように慌てて口が動いていた。
「、あっ!えと、この時間だしね。お昼はみんな帰っちゃうんだもの」
「…ふーん、そうか」
「あ…っと、座らないの?汰人の分のグラス持ってこようか」
「別にいいよ、そんなん自分でやるし。桔梗は座っとけ」
くしゃり、何故か私の髪をかき回した汰人は視線を滑らせ、私の隣に腰掛ける彼に言葉を投げた。
「そんで先生、これはどこに置けばいいワケ?」
「嗚呼、私が置いてくるよ。ついでにグラスも持ってくるから汰人は座ってなさい」
立ち上がった彼はよいしょと呟きながら腰を上げる。いやそれくらいなら自分で、と汰人が断りを入れても彼はそれを聞かず酒瓶を腕の中にしまい、にっこり微笑んで台所へ消えて行った。
困ったようにそれを見ていた汰人はガシガシとどこか乱雑に頭を掻いてため息を吐き出す。そしてさっきまで彼がいた方とは逆の左隣に腰掛けた。