撮りとめた愛の色
「まぁ、これからはまた顔も出せるしそのうち会えんだろ」
「そうなの?ならいいけど」
「全部終わってなかったらこんな時間から来ないっての。あー疲れた」
大きな欠伸をひとつ漏らした汰人は上体を支えるように両手を後ろについた。
「ニブン科っていつもレポートとかあると疲れてるよね」
「古文学とか、根本から調べて書かねぇとだからな。能文は?こないだ箏《こと》やってたらしいけど」
「ことじゃなくて箏《そう》ね。調律に時間かかって結局ほとんど教授にやってもらったから私はあんまり」
汰人は日本文学———、通称『ニブン科』と呼ばれる学科にいて私は能文と略される事の多い能芸文化学科にいる。紛らわしい科名だが、大学はなぜか別。どうやら姉妹大学なのだとか。
汰人は少し呆れた顔をして、
「桔梗ってさぁ…。」
「……なによ。ハッキリ言えばいいじゃない」
言いかけてため息をついた。汰人が言わんとしていることを知りながらも、むすりとしたまま先を促す。どうせ不器用だとか、能文のわりにはそういう事が向いてないなとでも考えていたのだろう。