撮りとめた愛の色
「随分な言い方だ。別に有名というわけではないよ。少し目に留《と》めてもらえただけだしね」
「いや普通に有名だけどな…。」
彼のどこかずれた呟きに隣で汰人がぼそりと指摘を入れた。
彼は疎い―――というより興味がないから鈍いのだ。メディアにあまり関心のない彼は自分の顔がどれほど騒がれているかなんて知りもしないに違いない。
「それに取材も断るさ。私的なものだったから支障はないだろうし」
「あー、そういう取材?七夕展とかじゃねぇのか」
「嗚呼、桔梗にも同じことを言われたよ」
「そりゃあ時期的にそう思うだろ。私的なことか、人気だな先生も」
汰人は彼から受け取ったグラスに麦茶を注ぎ入れる。薄く青色に着色されたグラスには注がれた麦茶の色がくすんで見えた。
さっきまで座っていた場所に腰を落ち着かせた彼は残っていた麦茶を煽るとうん、と頷いて満足気に口元を緩めた。今日は天気も良く暖かいからか、どうやら冷たい麦茶がお気に召したらしい。
「七夕といえば、今年は休みの関係で祭りが被るらしいね。知っていたかい?」
「そうなの?初耳だけど」
「それってこの近くで毎年やってる、あのでかい夏祭りのことか?」
汰人も初耳だったのか、彼に尋ねていた。この近くで行われる祭りといえば規模の大きい夏祭りくらいだ。毎年凄い賑わいで近くの大学からも何らかの企画をあげ、運営に参加したりすることもあるらしい。
「へぇ。偶々うまいこと被ったもんだな」