週末シンデレラ
「ごめんなさい、騙すつもりはなかったんです。一也さんと麻子がセッティングしてくれた紹介で……わたし、係長に彼氏を探しているなんて知られるのが恥ずかしくて、それで……こんな変装みたいなことをしてしまって」
「待ってくれ。じゃあ、俺がずっと“カオリさん”だと思って接してきた人物は、本当は“加藤さん”だったということか?」
「そうです、わたしです。一緒に映画を見たのも、水族館へ行ったのも、植物園へ行ったのも……今日、食べ歩きしたのもわたしです。加藤詩織なんです」
係長には理解しがたいことだとわかっているし、現実を突きつけるのは心苦しい。
だけど、受け入れてほしい。……わたしには、変わりないのだから。
「……ふざけないでくれ」
「本当にすみません。でも、性格は偽ってません。わたしがメイクをして、髪を伸ばせば“カオリ”になれるんです」
「そういう問題じゃない」
「っ……!」
強く言われ、身体がビクリとすくむ。係長のウイッグを持った手はワナワナと震えていた。
「職場と違う俺を見て面白かったか? 厳しい上司って、俺のことだろう。言いたいことを言って、スッキリできたか?」
「ち、ちが……っ」
「俺は……ずっと騙されていたんだ。嘘をつかれて、気分のいい人間がいると思うか?」
都筑係長の顔が、醜く歪む。そんな顔をさせたくないのに、係長はわたしの話に聞く耳を持ってくれない。