【番外編】惑溺 SS集

驚きと混乱で、泣きそうになりながら私にしがみつく矢野くんの首元を、コートを着た沙織が引きずるように引っ張る。

「矢野、しつこい!
しつこい男って最低だっつの。
ほら、さっさと帰るよ」

容赦ない沙織の言葉に矢野くんが、『えーん』と子供みたいに泣き出した。

「じゃあ、由佳。
明後日、会社で、会えるの、楽しみに、してるから」

矢野くんをひっぱりながら、沙織が私の顔を見てにやりと笑う。
根掘り葉掘り聞きだすからね、と好奇心むき出しの顔に書いてある。


ああ、あさって会社に行くのがちょっと怖い……。


「悪いね、酔っ払いを押し付けて無理やり追い返すみたいで」

扉を開きながらそう声をかけたリョウを、沙織は見上げて、意味深にうふふと笑った。

「いいんですよ。
これ以上居座ったら二人の邪魔になっちゃうし。
んじゃ、由佳頑張って」

頑張ってって、何を頑張ればいいんだ。
沙織のその意味ありげな含み笑いに、思わず冷や汗がでそうになる。

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